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【デザインで人と人をつなぐ 松岡恭子の一筆両断】世界一の美食の街を訪ねて

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 「世界一の美食の街」として知られるスペイン、バスク地方のサンセバスチャン。そう知られるようになったのは最近のことです。なぜ短い期間に、世界中から来訪者が絶えない街になったのでしょうか。

 ミシュランの星付きレストランがたくさんある▽スペインで初めての4年制の食の大学がある▽シェフ同士がレシピを公開し切磋琢磨(せっさたくま)を続けている▽料理好きの男性が腕を振るえる美食倶楽部がある-などで知られています。詳しくは高城剛氏著「人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか」が参考になりますが、私もまちづくりのヒントを得たいと思い、先月行ってきました。

 この地方ではピンチョスという指でつまんで食べる軽食が有名です。扉も開けっ放しのバル(居酒屋)には長いカウンターがあり、その上にピンチョスが盛られたたくさんの大皿が並んでいます。好きなものをオーダーし、ほとんどの人が立ったまま食べるのです。そしてちょっと食べては次へと、いくつもの店をはしごするのがスタイル。歴史を感じる旧市街の狭い道の両側に、そんなバルが数えきれないほど、ひしめいています。

 どの店にどんな個性が光っているかは本や雑誌にたくさん紹介されていますし、もちろんインターネットで検索することもできます。私が注目したのは、この街に「体験」を提供するメニューが豊富な点でした。

 私が参加したひとつはmimoという会社によるものでした。バルのはしごがお勧め、といわれてもスペイン語は話せないし、どの写真を見てもカウンター周りは混雑していて、うまく注文できるかしらなどと不安になります。参加したピンチョス試食ツアーは本当に満足度の高い内容でした。事前にネットで申し込んだ参加者は、スコットランドとオーストラリア、そして私たち日本から計10人。3時間で6軒のバルを巡りました。

 ツアーガイドは博士課程に在籍する地元大好きの食いしん坊さん。建築を通して街の歴史を説明しながら、つぎつぎとバルに入って注文。「この店では絶対これを食べて! なぜなら…」と情熱をもって説明してくれます。旬の食材、お店の歴史や特徴をわかりやすく教えてくれるので、胃袋も好奇心も満たされます。お互い知らなかった参加者同士も、最後には大の仲良しになりました。

 こうしたツアーには、毎日開催されるもの、要望によって構成するものなどがあり、行き先も近隣の農家、ワイン醸造家などさまざまです。

 もうひとつご紹介しましょう。前述した美食倶楽部は会員制が基本です。会員になれば倶楽部のプロ仕様のキッチンで好きな料理をつくり、併設されている広い食卓でほかの会員やゲストにふるまうことができます。歴史ある倶楽部は何年も入会を待っている人がいるそうで、星付きレストランのシェフも会員で他の会員と一緒に楽しく料理をしている倶楽部もあるとか。人の繋がりを豊かにする、コミュニティーを育む施設として、見たくてたまりませんでした。

 そこで申し込んだのが「美食倶楽部での料理教室」。ガイドのサンセバスチャン在住の日本人女性、山口純子さんはまず街をぶらぶら散歩しながら歴史を語ってくれました。市場や路面食品店で旬の野菜や魚介を選ぶ楽しい買い物です。そしていよいよゲストとして美食倶楽部へ。現れたのは、経験豊かなプロのシェフです。彼から教えられながら素材を切ったり炒めたりし、料理が出来上がっていきます。ここでしか収穫できないと聞き購入した豆は、自分で料理すると、おいしさが深まります。みんなで食卓を囲めば、今日初めて会ったとは思えない親近感です。食べる、という行為が非営利の倶楽部も舞台にしながら、こんなにたくさんの側面から演出されていることに感動しました。

 情報があふれている現代社会。旅は準備が楽しいと言いますが、ネットで調べていると際限がない気がすることもあります。たくさんの情報を得て選びたいけれど、欲しいのは実は情報ではなく満足のいく実体験だということを考えれば、情報を編集し体験に結び付けてくれるサービスが重要なのだと納得がいきます。

 ネット上は、真偽入り混じるニュースや口コミが大量に行き交います。情報発信は必要なことですが、それにとどまらずリアルな体験に結び付けるサンセバスチャンの例は、観光まちづくりの参考になると思いました。

                   ◇

【プロフィル】松岡恭子

 まつおか・きょうこ 昭和39年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学工学部卒。東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院修士課程修了。建築家。設計事務所スピングラス・アーキテクツ代表取締役および総合不動産会社、大央の代表取締役社長。建築の面白さを市民に伝えるNPO法人「福岡建築ファウンデーション」理事長も務める。

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