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【突破力】キーストン イカ釣り用エギ、国内生産にこだわり高い支持

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【突破力】
キーストン イカ釣り用エギ、国内生産にこだわり高い支持

 日本人は世界有数のイカ好きだ。さまざまなイカ釣り用具が使われる中で、焼き物の街・有田で誕生した仕掛けが、漁師はもちろん、釣り愛好家から高い支持を得ている。特に「エギ(餌木)」と呼ばれる疑似餌は、思いのままに動かせる操作性で評判を呼ぶ。

 イカは大食漢だ。1日で体重の1割にもあたる餌を食べる。長崎や佐賀、鹿児島では、小魚やエビに似せたエギを使って、釣り上げる漁法が盛んだ。エギは、江戸時代に薩摩藩で始まったとされる。

 日本伝統のルアーといえるエギは、エビとも魚とも言えるようなボディーに、針を傘状にまとめた「傘針」が付いている。イカがエギを抱えると、傘針が身に引っかかる。

 食欲旺盛な半面、イカは警戒心が強い。食いつかせるには、生きているような動きで誘う必要がある。釣り人の腕はもちろん、エギの性能が釣果を左右する。

 かつて木製だったエギも、現在はプラスチック製が主流となった。

 その中でキーストンは、他社が見向きしなかった硬質発泡ウレタンを使う。

 住宅やビルの断熱材として用いられる素材だが、適度な弾力性があり、イカの食いつきが良い。耐久性もある。

 だが、他社が見向きもしなかった理由もある。

 名前の通り、素材内部に泡が生じる性質上、均一な密度で形成することが難しかった。エギは軽い物で10グラム程度しかない。わずかな密度の違いも、動きに影響する。量産には向かない素材と考えられていた。

 この課題をクリアしたのは、金川信栄社長の父だった。ウレタンの発泡をコントロールする手法を開発したという。

 平成13年、新製品ができ、近くの漁師に試してもらった。従来品より、大きな釣果を挙げた。

 「漁師は、水揚げ量が多い船があれば、どんな秘密があるか探ります」

 金川氏が話す通り、噂が噂を呼び、キーストン製品の指名買いが増えた。発売から2年もすると、釣り具専門店からの引き合いもあり、会社は軌道に乗った。

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 支持される理由は、もう一つある。漁師との距離の近さだ。

 イカの寿命は1年だ。面白いもので、同じ種類のイカでも、年によって食いつきのよいエギは変化する。動き方や色など、その年のイカの「好み」に合わせた改良が必要となる。

 漁師はエギに対して数ミリ、数グラム単位の微調整を求める。キーストンは、イカ漁が盛んな佐賀・呼子(唐津市)などに近く、現場の声が入りやすい。

 社長の金川氏は時に、漁師の船に乗り、漁の様子を見ながら、より良いエギを追求する。

 「海外で大量生産していたら、微調整は難しかったと思う。金型からパッケージまで国産化しているからこそ、価格競争力を保った上で対応できる」

 傘針など金属部品の一部は、障害者が就労する共同作業所に依頼する。その数は現在、佐賀県内で10カ所に上る。社会貢献に加え、製造単価を抑える経済メリットもある。

 発注して終わりではない。作業所にいる人は、障害の程度が違い、できる作業内容は違う。キーストンは、傘針の生産装置そのものを作った。作業を単純化し、熟練を不要とした。

 「ものづくりは、道具作りから」。同社が大切にする基本姿勢だ。こうした点が評価され、平成30年4月、文部科学省の「創意工夫功労者賞」に選ばれた。

 イカへのこだわりが高じて、佐賀大などと「イカロボット」製作に取り組む。金川氏は「ロボットを通じてイカの生態を探ることで、よりよいエギにつながるかもしれない。何より、イカのことが知りたいんです」と笑った。(中村雅和)