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熊本市内に高校野球ファンが集うバー オーナーの熊工OB・星子さん「負けたから、この店ができる」

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熊本市内に高校野球ファンが集うバー オーナーの熊工OB・星子さん「負けたから、この店ができる」

「たっちあっぷ」のオーナーを務める星子崇氏 「たっちあっぷ」のオーナーを務める星子崇氏

 ■「奇跡のバックホーム」でタッチアウト

 熊本市内の繁華街にあるビルの一角に、高校野球ファンが集うバーがある。店の名を「たっちあっぷ」と言う。平成8年夏の全国高校野球選手権大会の決勝で、松山商(愛媛)の「奇跡のバックホーム」により、本塁でタッチアウトになった熊本工OBの星子崇氏(39)がオーナーを務めている。

 「あの飛距離で自分の足だからね。スタートもちょっと早かった」

 3-3の延長十回1死満塁。三塁走者の星子氏は当時、50メートル5秒8の俊足を誇った。右翼へ高々とフライが上がった瞬間、熊本工のベンチは初優勝を確信し、松山商のベンチは負けを覚悟した。

 しかしこの日は、右翼から左翼に向かって、甲子園特有の「浜風」が強く吹いていた。フライは大きく押し戻された。交代したばかりの松山商の右翼手、矢野勝嗣氏の返球は風に乗ってぐんぐん伸びた。「捕手がタッチに来るというか、俺がそこに入っていった」。両手を広げて懸命にアピールしたが、球審はアウトのコール。天を仰ぎ、本塁上に崩れ落ちた。

 このワンプレーで流れは大きく松山商に傾いた。勝ち越された十一回の守備は、ほとんど覚えていないという。

 だが、星子氏は納得している。「あの時、うちのベンチは万歳していた。でも、松山商は本塁のバックアップにも入って、諦めていなかった。その差かなと思う」

 卒業後は社会人野球に進んだが、2年半で引退し、その後は野球と縁遠くなった時期もあった。だが、多くの飲食店を手がける中で「自分に求められている」と感じ、平成26年に今の店を開いた。「当事者であって、今は良かったと思う。負けたから、この店ができる」。あの記憶は20年以上の月日をかけ、苦いものではなくなった。