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診療所やスーパーで停車 生活密着バス、ワンコインで活性化 下関

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診療所やスーパーで停車 生活密着バス、ワンコインで活性化 下関

ワンコイン化で利用者が増えた生活バス=山口県下関市 ワンコイン化で利用者が増えた生活バス=山口県下関市

 ■バス好き記者の乗車ルポ

 山口県下関市で、コミュニティーバスのワンコイン化など、路線バスの利用者増を目指した取り組みが進む。同県内のバス利用者はピークの6分の1に減り、今後は人口減によって、さらなる減少が必至。専門家は「公共交通の崩壊はコミュニティー、そして国の崩壊を招く」と警鐘を鳴らす。日頃の移動でバスをよく使うバス好き記者が、ワンコインバスに乗り、地域交通を考えた。(大森貴弘)

                  ◇

 5月中旬の土曜日。下関市内の旧菊川町にあるバスターミナルに赴いた。合併前に町役場だった総合支所のすぐ近くだ。ここからJR山陰線川棚温泉駅へ向かって、コミュニティーバス「生活バス」が出発する。

 車両は14人乗りのワゴンタイプだ。ターミナルに乗客はいなかった。

 バスが出発した。途中、診療所や他の路線バスと乗り換えができる停留所、スーパーの前などで停車する。所々で利用者が待っていた。やはり高齢者が多い。

 バスは、高齢者を見守る役割も果たす。

 「次の停留所から1人乗りますよ」

 運転手の高橋洋一さん(67)が、教えてくれた。利用者とは顔なじみになり、いつもの時間帯に、いつもの利用者がいなければ、運転手同士で情報交換することもあるという。

 下関市は、こうした生活バスを、山間部を中心に計13路線で運行する。

 距離に応じた料金体系だったが、市は4月2日、どこで乗り降りしても100円に統一した。最大600円の値下げとなった。

 「こんな細い道、大丈夫か?!」

 バスはあぜ道としか思えないようなルートも通る。高橋さんは住宅街に入ると、右に左にとハンドルを切り、何度も停車する。名前の通り、暮らしに密着したバスだと実感した。

 川棚温泉駅まで片道50分。往復での利用者は計4人だった。

 決して多くはない。高橋さんは「かなり利用者は増えたと実感する」という。通院など利用のピーク時間を外れたこの便は、以前は乗客ゼロの日も多かった。

 市のまとめによると、生活バス利用者は、平成21年の2万7千人から減少傾向にあり、28年は1万8千人だった。

 ワンコイン化から1週間で、利用者数は路線によっても違うが、最大2・6倍に増えたという。記者が乗車した菊川地域では、今年4月の利用者は、前年同月比13%増の約1200人だった。

 「買い物や通院など日常の足として、今後も潜在需要を掘り起こしたい。高齢者の外出が増えれば、町も活性化する」

 前田晋太郎市長は、ワンコイン化の狙いを、こう述べた。

 買い物目的で、記者と同じバスに乗った半野栄一さん(72)は「通院や買い物で週に2~3回は使う。運賃が安くなったので、家に閉じ籠もらず、バスに乗るようになった」と語った。

 下関市が支援するのは、生活バスだけではない。

 市中心部からの路線バス網を持つサンデン交通は4月16日、バスロケーションシステムを導入した。スマートフォンなどで、乗り換え案内や時刻検索ができ、バスの位置情報も入手できる。導入費用のうち、約3千万円を市が負担した。

 システムは、英語や中国語などにも対応する。市は訪日観光客らの利用増も期待する。

 人口減少社会を迎え、路線バスの環境は厳しい。

 山口県バス協会によると、県内のバス輸送人員は、昭和40年の1億5545万人をピークに、その後は減少傾向が続く。平成26年は2644万人まで落ち込んだ。

 人口減少は、乗客減に加え、運転手ら人材不足という難題をバス事業者に突きつける。追い込まれた事業者は、路線縮小に踏み切るしかない。

 徳山工業高等専門学校の目山直樹准教授(都市計画)は「地方都市では、バス事業者がいつ撤退しても、おかしくない。尻拭いは自治体がやらざるを得ないが、危機感の薄いところが多い」と指摘した。下関市は、全国を上回るペースで人口が減っている。現在26万人だが、推計によると2040年に20万人を割り込む。

 今回の取り組みは、3月に策定した市地域交通網形成計画に沿ったものだが、十分とはいえない。

 バス好きだからとひいきしているのではなく、小回りの利くバスは、公共交通機関として重要性が高まるだろう。そのためには、数十年間で変化した道路網や住宅地の配置に応じたルートの見直しなど、路線再編は避けられない。

 目山氏は、生活バスについてスクールバスなどの複合機能を持たせることや、病院のロビーを待合所とし、乗り換え機能を充実させるなどの改善策を挙げた。その上で「交通手段がなければコミュニティーは崩壊し、やがて国が成り立たなくなる。公共交通の危機は、大げさではなく、国家の危機と捉えるべきだ。手遅れになる前に、それぞれの自治体で対策をとらないといけない」と訴えた。

 交通網の維持へ、不断の努力が欠かせない。