産経ニュース

【被災地を歩く】「震災や浪江、飾らず伝える」 福島市の岡さん、紙芝居で語り継ぐ

地方 地方

記事詳細

更新

【被災地を歩く】
「震災や浪江、飾らず伝える」 福島市の岡さん、紙芝居で語り継ぐ

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で体験した苦悩や葛藤などを、紙芝居を通して語り継ぐ女性がいる。福島県浪江町から福島市に避難した岡洋子さん(57)。取り組みを始めて約4年。仮設住宅が中心だった活動は、いつしか県外に広がり、昨年3月にはフランスでの公演にも臨んだ。岡さんは、訥々(とつとつ)とした語り口で言う。「震災や浪江のことを、飾らず多くの人に伝える。これが私の役割なんです」

 ◆体験を作品に

 千葉県成田市で昨年12月に開かれたイベントで、近作『なみえ母・娘避難物語 帰らない』が上演された。宮城県名取市で2人の娘とともに大きな揺れに見舞われ、やっとの思いで浪江町の自宅に戻ると、介護施設で働き始めた娘が、勤務先に向かった。「行くな」と言えず、送り出した母の苦悩。娘は混乱した施設で、心身とも極限状態に追い込まれる…という物語。岡さんの体験を作品にした。

 上演には、岡さんとともに、施設に向かった長女の美里さん(28)のほか、次女の裕美さん(24)、夫の高志さん(60)も出演。淡々とした語りに、会場は静まり返り、涙を流す来場者もいた。

 岡さんが活動を始めたのは平成26年5月。同県二本松市での会合に参加した際、紙芝居グループ「浪江まち物語つたえ隊」のメンバーから声を掛けられた。震災直後から「浪江のために何かをしたい」と思っていたが、何をすればいいか分からない。拾った石に絵を描くことに集中したが、焦燥感は募るばかり。そんな時の誘い。迷わず参加を決めた。

 浪江町の消防団員だった岡さんは、紙芝居を啓発に使ったこともあり、紙芝居には親しみがあった。浪江町民が避難した二本松市の仮設住宅などを回り、ふるさとに伝わる民話の紙芝居を演じると、「多くの人が笑ってくれた。自分でもやれることがある」と感じた。たくさんの笑顔に触れ、「つらい思いをしていても、頑張っている人がたくさんいる。この事実を伝えたい」。心に決めた。

 ◆フランスで上演

 「つたえ隊」の代表作「無念」への思いは、人一倍強い。原発事故で避難命令が出たため、がれきの下敷きになった住民の救助活動を断念せざるを得なかった同町請戸地区の消防団員の無念と苦悩を描いた作品で、登場人物には知人も多い。

 各地で上演され、反響の大きな作品はアニメ化された。昨年3月にはパリやリヨンなどで計6回上演された。福島県内や東京など、国内での上映会にも、多くの人が詰めかける。岡さんが「つたえ隊」のメンバーとともに活動するフィールドは、日に日に広がりをみせる。

 浪江町の避難指示が解除され、まもなく1年。ふるさとに「帰りたい」。でも「帰れない」。「帰る」と「帰らない」のはざまで、住民の心が大きく揺れていると分かっている。岡さん自身、浪江には帰らないと決めた。でも、ふるさとは忘れない。町内にある倉庫を改装して、5月には「みんなが集まれる場所」として開放するという。

 「まず、事実と今を知ってほしい。でも、意見を押しつけるつもりはありません」。まなざしは優しく、力強かった。(内田優作)