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【もう一筆】モノだけでなく「思い出」も

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【もう一筆】
モノだけでなく「思い出」も

 JR山形駅前百貨店として46年間営業を続けていた十字屋山形店が1月末、閉店した。同店での最後の買い物をしようと、家族連れや仕事帰りの人など、多くの客が来店した。

 午後7時半、閉店を知らせるスコットランド民謡の「アニーローリー」が流れた。幼いころから買い物に訪れていたという山川武店長は「山形の皆さんから『十字屋さん』と親しみを持って呼ばれていたことを従業員一同、これからの励みにします」とあいさつし、深々と頭を下げた。看板の灯りが消え、シャッターがゆっくりと降りると、多くの拍手とともに、「ありがとう、十字屋、ありがとう」という声が飛んだ。

 大きな買い物袋を提げた女性がこんな思い出を語ってくれた。「子供を連れて十字屋によく来ました。買い物の後、最上階の食堂で家族で食事をするのが楽しみでした」

 子供のころ、親に連れられて行った百貨店での楽しい記憶がよみがえった。十字屋山形店も駅前のにぎわいを支える存在だったが、郊外店に顧客を取られ、ネット販売など消費者の購入方法が変わり、百貨店を取り巻く環境が厳しくなった。

 閉店を見つめる母と娘の姿もあった。同店で過ごした半世紀近い時間を再確認するかのように2人はシャッターが下りるまで、ずっと見届けていた。同店が売ってきたもの、それは単なるモノだけではなく、「思い出」もあったのだろう。そんな思いを強くした。(柏崎幸三)