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映画館のない街で映画を制作 「唐津シネマの会」甲斐田晴子事務局長、大林宣彦監督「花筐/HANAGATAMI」に奔走

唐津市での映画制作に奔走した甲斐田晴子さん
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 佐賀県唐津市を舞台に、戦前の若者の群像劇を描いた映画「花筐/HANAGATAMI」が各地で上映されている。大林宣彦監督が長年温めてきた構想を、「唐津シネマの会」との縁が動かした。映画館が消えた街・唐津で、映画を撮る。会事務局長の甲斐田晴子さん(36)は、地元調整に奔走した。(高瀬真由子)

 平成26年6月。甲斐田さんの元に、大林監督から手紙が届いた。40年前に執筆したという脚本が同封されていた。

 「唐津映画『花かたみ』の構想を温め直しております。準備稿ですが、一部お預け致しますので、お読みになってください」

 甲斐田さんは仰天した。「大変なものをもらってしまった」

 監督との出会いは、その1年半前だった。唐津シネマの会は、映画上映などの活動を続けている。市民会館で、監督の映画が上映されることになり、甲斐田さんも手伝った。

 「文化や芸術を活用したまちおこしは、絶対に間違っていない」。そう力強く語る監督に、甲斐田さんは、会の応援団であるアドバイザリーボードへの就任を要請した。その後も交流を続けた。

 花筐は作家、檀一雄の同名小説が原作だ。甲斐田さんは脚本や原作を読み込んだ。若者の爆発しそうな生命力や葛藤に圧倒された。「これほどすばらしい作品の舞台が唐津なんて、こんな幸せなことはない。映画化したい」。思いを監督に伝えた。

 27年3月、唐津で監督を囲むイベントを開いた。その場で監督は「映画をつくろうと思う」と宣言した。

 甲斐田さんはまた仰天した。「制作が決まったとは聞いていなかった。話を真剣に聞く市民を見て、監督は『この街なら映画が作れる』と感じたのだと思う」

 ■唐津くんち

 ロケの準備が始まった。とはいえ、映画制作のノウハウは全くない。

 場所の調整や資金集め、エキストラやボランティア募集と、やることは山ほどあった。まず取り組んだのが、オール唐津の態勢づくりだった。

 市長や地元選出の国会議員、商工会議所会頭ら、政財界関係者と、監督が意見交換する場をセッティングした。多くの人が賛同し、映画制作に向けた委員会ができた。

 シネマの会が事務局となり、甲斐田さんは事務局長を任された。募金やふるさと納税を活用した資金集めも始まった。目標は1億円だった。

 ロケ地が決まるにつれて、監督の構想が膨らむ。脚本は137ページから218ページに厚みを増した。

 甲斐田さんは、また驚いた。伝統行事「唐津くんち」の曳(ひき)山(やま)の登場が、計画されていた。

 「唐津くんちは大切な神事。行事以外で曳山を出すなんて考えられない。それだけは勘弁して」

 心の中でそう思ったが、とにかく一度、声はかけないといけない。

 唐津曳山取締会の責任者と、監督の会食をセッティングした。

 酒を酌み交わしながら、監督は曳山が映画の魂を象徴することを伝えた。心意気は伝わり、協力が決まった。曳き子が、エキストラで参加することになった。

 ■監督のがん判明

 撮影は28年8月25日から約3カ月と決まった。

 明日からロケという段階になって、監督の肺がんが判明した。かなり進行していた。甲斐田さんは血の気が引いた。

 それでも、監督は映画作りに、強い意欲を示した。甲斐田さんら地元も一丸となった。

 ロケ地の撮影許可や、ボランティアの日程調整を進めた。楽器や医療の演技指導者も、地元側で探した。ロケ地は約40カ所に上った。甲斐田さんは寝る間も惜しんで作業にあたった。白髪が増えた。

 「目まぐるしい日々でした。心の支えは、作品のすばらしさと、協力する市民の心意気でした。映画が完成し、市民が唐津を誇りに思い、文化や芸術の良さを実感する。その日のことを思い、突っ走った」

 エキストラ、ボランティアとして、3千人近くの市民が協力した。蓄音機など先祖から受け継いだものを、小道具として貸し出した人もいた。市民が持ち寄った写真や装飾で、監督が描く戦前の唐津が、より鮮やかになった。

 すべてが無事に終わった。関係者向け試写会でエンドロールが流れると、甲斐田さんは涙が止まらなかった。「間違いなく大輪の花が咲いた」と思った。

 原作者、檀一雄の辞世の句に「モガリ笛 いく夜もがらせ 花二逢はん」とある。寒風を乗り越えて春に花が咲くように、苦しい日々を乗り越えたからこそ、映画という大輪に出会ったと感じた。

 作品は72回毎日映画コンクールで日本映画大賞に、大林監督も91回キネマ旬報ベスト・テンの監督賞に選ばれた。

 「監督と同時に、唐津市民がいただいた賞だと思う。唐津は、文学や映画に大きな影響を与えることができるものを持っている」。甲斐田さんは全力疾走の毎日を振り返りながら、改めて地元を誇りに思う。

 ■常設映画館復活へ

 甲斐田さんが専務を務める「いきいき唐津」は、常設映画館の復活構想を進める。平成31年にも再開発される商店街に設ける計画だ。実現すれば、唐津市内で20年ぶりの映画館復活となる。

 全国の地方都市で映画館がなくなる中、地方で映画を上映するモデルケースにしたいと意気込む。

 「私たち若い世代は、持続可能な街をつくるという大きな宿題をもらっている。何を守り、何を変えていくか。日々、そこと向き合っています」

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