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【語り部の言の葉】(10)福島・広野町 西本由美子さん(64)

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 ■国道6号を世界一の桜並木に 地元で生きる姿、子供に示す

 福島県広野町のNPO法人「ハッピーロードネット」を通じ、地元の高校生と地域活動に取り組んでいます。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興を目指し、高校生らと国道6号に桜の木を植える「ふくしま浜街道・桜プロジェクト」の活動を始めました。

 国道6号は福島県の沿岸部の浜通り地方を縦に走ります。第1原発が立地し、原発事故で避難区域に指定された双葉郡を抜けます。

 プロジェクトは延長163キロの道の両脇に10年かけて2万本を植樹し、世界一の桜並木にする計画です。これまで9千本を植えました。

 プロジェクトは平成23年12月に始める予定でした。地元の高校生は高校を出ると8割方就職します。でも地元にはそれだけの数の高校生を受け入れる企業がありません。高校生たちは「地域をきれいにすれば企業が来てくれるだろう」と考え、植樹を立案しました。

 ところが、その年の3月に震災と原発事故が起きたのです。活動の中心だった女子高生が津波にのまれて亡くなりました。彼女は卒業後の進路が決まり、運転免許を取るために自動車教習所に通い、送迎の途中に津波に巻き込まれたそうです。

 私も避難し、高校生たちの安否が確認できませんでした。彼女の死を知ったのも半年ぐらい過ぎてからです。プロジェクトも必然的に中止に追い込まれました。

                 × × ×

 震災の1年後、私の携帯電話に電話がかかってきました。高校生の女の子からです。私たちは「ハイスクールサミット」という高校生が交流を深める集まりを年1回開いていて、電話はその参加者からでした。

 「おばば、元気?」

 子供たちは私のことを「おばば」と呼びます。

 「おばばの声が聞きたくなって」

 彼女は震災でおじいちゃんとおばあちゃんを亡くしました。家も流され、学校の体育館に避難していました。

 私は彼女の声を聞き、勇気づけられました。この子は悲運に遭いながらも必死に生きていこうとしている。

 原発事故で家族がバラバラになった子がいる。家に帰りたくても帰れない子も。自分の家に立ち入りするのに役所の許可を得なければならない理不尽な目に遭っている子もいる。

 大人がくよくよしている場合ではない。子供たちを元気づけなければならない。

 私の信念は「大人との約束は守れないこともあるけれど、子供との約束は破ったことがない」です。

 私は高校生たちと桜を植える約束をしたはずです。「約束を果たそう」とプロジェクトの再スタートを決意しました。

                 × × ×

 原発事故の避難区域に指定された富岡町に「夜ノ森の桜並木」と呼ばれる名所があります。並木道の一部区間は今も避難指示が解けず、道はバリケードで遮られています。

 桜が見頃を迎え、誰に見られることなく咲き誇る桜の映像がテレビに映っていました。それを見て涙がこぼれた記憶があります。その時の思いもプロジェクト再開の決意を後押ししました。

 行政と地元企業にプロジェクトの趣旨を話し、資金協力を得ました。原発事故2年後の25年3月、本格的に植樹が始まりました。

 桜の木にはメッセージカードが提げられます。植樹した人、資金協力してくれた人が思いを書き込みます。桜が語り部となって人々に訴え掛けるのです。

 桜はまだ幼木ですが、今の高校生が将来パパやママになって地元に帰ってきたときに成木となって迎えてくれるのでしょう。桜は子供たちと歩みをそろえて成長します。

 原発の廃炉事業は30年から40年かかると言われます。気の遠くなる話ですが、私たちは廃炉を見届ける運命共同体の定めを負いました。私は単なる主婦で科学者でも識者でもありませんが、困難があっても地元で生きる姿を子供たちに見せることはできます。それが福島の大人の役目だと思います。

 ハッピーロードネットは高校生たちとチェルノブイリ原発事故の被災地であるベラルーシを訪問する活動も始めました。

 現地をこの目で見て被災者の話を実際に聞くと、私たちがいかに誤解や偏見を抱いていたことを再認識します。これと同じように福島のことも正確には伝わっていないのでしょう。

 私は福島を訪ねてきてくれた人に「ここで見聞きしたことはおうちや職場に戻ったら正確に伝えてください」とお願いしています。いいことも悪いことも話してもらって結構です。ただ、ありのままに伝えてほしい。

 原発事故から7年を迎えようとしています。被災地は今、風評被害と風化の問題に直面しています。これも情報が正確に伝わっていない表れでしょう。

 地元のコメも野菜も果物も水も放射性物質は検出されず、安全性が保証されています。私たちはそれを飲んで食べて地元で元気に暮らしています。その姿を発信し続けたいと思います。

                   ◇

【プロフィル】西本由美子

 にしもと・ゆみこ いわき市生まれ。ハッピーロードネット理事長。植樹の活動資金を確保するため、クラウドファンディングを始めた。問い合わせはハッピーロードネット(電)0240・23・6172。

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