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「飛ばないテントウ虫」で害虫駆除 千葉県立農大が商品化 羽を特殊樹脂で固定

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「飛ばないテントウ虫」で害虫駆除 千葉県立農大が商品化 羽を特殊樹脂で固定

 ■研究指導者「命と生態系守る新技術」

 農作物の敵アブラムシを駆除するため、県立農業大学校(東金市)の学生らがアブラムシを食べるテントウムシを活用した害虫防除技術の実用化に成功、「テントロール」の商品名で1月から販売を始めた。飛ぶ能力が低い個体を交配させて遺伝的に飛べなくしたテントウムシを商品化したケースはあるが、同大学校の手法は自然界で採集した個体の羽を固定し、一時的に飛べなくする点が独創的。農作業の労力や農薬の削減につながる自然に優しい害虫対策と注目され始めている。 (城之内和義)

 2月7日、旭市入野のハウスで葉物野菜のアイスプラントを栽培する長谷川功さん(60)は同大学校からテントロール500匹を購入した。「2月ごろから暖かくなってくるとアブラムシが出てくる。放っておくと樹液を吸われ、すすをかぶったように黒くなり弱ってしまう」。試験的に使って効果を実感できたため導入を決めた。

 この日は納品に訪れた学生たちと一緒に、ハウス内にナミテントウを放した。パラフィン紙の袋を開封し、葉や茎の間に置くと、中からノコノコ這い出るナミテントウ。一見、普通のテントウムシと変わらないが、目をこらすと、星の模様が入っている「さや羽」の真ん中に半透明の小突起物。羽を広げられず、飛べないようにする樹脂だ。

 アブラムシの駆除に、天敵であるテントウムシを利用しようという発想と研究は、さまざまな研究機関でみられる。その中でも、同大学校の独創性が発揮されたのは、県内の自然の中でナミテントウを採集し繁殖させ、特殊な樹脂で一時的に羽根を固定するという手法。樹脂で固定する行程を効率化し“大量生産”を実現した。商品化にかかわるこれら技術を昨年5月、特許出願した。

 実地試験を行ってみると、1平方メートル当たり2匹を放つことで、イチゴやナス、ピーマン、コマツナなどの作物でアブラムシの防除効果が高まることが確認され、今年1月から販売を始めた。価格は1袋10匹入りで500円。今のところ、長谷川さん方を含む2軒しか購入者がないが、3月には別の農家2軒が利用する予定で、生産者に有効性が認識され始めた。

 長谷川さんは「無農薬野菜を売りにしてきたので、アブラムシの退治に悩んでいた。(テントロールは)安全でコストも安い。これなら見た目も良く、おいしい野菜ができる」と話す。今後は作付面積2200平方メートルの畑のため、500匹を追加する予定という。

 羽の固定に使う樹脂の選定やマニュアル作りを担当した研究科2年の名雪将史さん(22)は「農薬のほかにも害虫対策の選択肢があることを農家に広めていきたい」と話している。

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 研究を指導する同大学校の清水敏夫講師(46)によると、他研究機関が遺伝的に飛べないナミテントウを作り商品化した例はあるが、自然界の個体を繁殖させ利用するテントロールのような実用化例はないという。また、農薬取締法に基づき、農林水産大臣と環境大臣から「特定防除資材」(特定農薬)に指定され(昨年12月)、県内で採集したナミテントウは県内でしか使えない。「県外産の個体を使うと、交配により、県内産に遺伝子汚染が生じる危険もある。県内での普及は生態系保護にもつながる」(清水講師)

 羽を固定する樹脂はナミテントウ自身や作物に無害なものを使用。繁殖や捕食能力に影響がなく、樹脂は約2カ月ではがれ、再び飛べるようになるという。

 清水講師は「農薬でアブラムシと共にテントウムシも巻き添えを食っていた。命を落としていたテントウムシを活用し、役目を終えた後は自然に帰れる」と新技術の意義を語っている。