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【島国を灯す】インドネシアと九州企業 20年越し 人のつながり

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【島国を灯す】
インドネシアと九州企業 20年越し 人のつながり

九電工の研修施設を訪れたウマル・ハムダン氏(中央)と、左隣で案内する沢田邦博氏 九電工の研修施設を訪れたウマル・ハムダン氏(中央)と、左隣で案内する沢田邦博氏

 ■「この国だから、できたんだ」

 「ここじゃなければ絶対に実現できていない。他の東南アジアの国では、だめだった。インドネシアだから、できたんだ」

 九電工国際技術室の技術アドバイザー、沢田邦博氏は力説した。その視線の先には、インドネシアの電気工事会社「デンキ・エンジニアリング」のウマル・ハムダン社長がいた。

 九電工はインドネシアのスンバ島で、太陽光と鉛蓄電池を組み合わせた発送電システムを稼働させた。沢田氏は現地に駐在し、施工の指揮を執った。建設や機器の設置、配線など実際の工事を請け負ったのが、ウマル氏の会社だった。

 2人の出会いは、20年前にさかのぼる。

 1997年、ウマル氏は技能実習生として来日した。受け入れた国際人材育成機構(東京)は、実習先として九電工を紹介した。そこでの指導役が、沢田氏だった。

 ウマル氏は2年間、沢田氏から電気工事のイロハを学んだ。指導は厳しかったという。

 「とにかく怒られた記憶しかない。でも、あの時代があったから、今の自分がいる。沢田さんには今でも頭が上がりません」

 自身にどんな技術が足りないのか、補うにはどうすべきか、道筋を示されることは多かったという。

 インドネシア帰国後は、日系の電気工事会社で勤務し、2007年に念願の独立を果たした。社名に「デンキ」と入れたのは、日本での修行時代を思ってのことだった。

 九電工のインドネシア進出に当たって、沢田氏の脳裏には、真っ先にウマル氏が浮かんだ。九電工は、ウマル氏に施工を任せた。

 「電気工事のノウハウは世界のどこでも変わらない。それでも、細かい手法や、専門用語は国によって異なる。ウマル氏のように日本流を知っているインドネシア人だからこそ、安心して任せられる」

 沢田氏がこう語ると、ウマル氏ははにかんだ。2人は深い信頼関係で結ばれる。

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 友情や信頼といった関係だけでなく、インドネシアのエネルギー市場は、ビジネス上の魅力にあふれている。

 インドネシアは資源大国だ。原油や石炭、天然ガスを輸出してきた。その品質は高く、同国に外貨をもたらした。

 インドネシア政府は稼いだ外貨で、やや品質が低く安い原油を、中東などから輸入した。国内で消費するためだった。

 ガソリンなどの市場価格の安定にも、貿易黒字を活用した。燃料補助金を出し、安価に抑えた。

 しかし、経済発展にともなってエネルギーの国内消費量が増えた。インドネシアは2003年以降、原油・石油の貿易額で輸入超過に陥った。

 その後、世界的な原油価格の高騰もあり、燃料補助金が国家財政を圧迫するようになった。インドネシア政府は補助金を段階的に削減した。それでも、中央政府の2014年予算の歳出額(約16兆円)の3割を、こうした補助金が占める。

 インドネシアにとって、省エネや再生可能エネルギーの開発を進め、石油や石炭の国内消費量を減らすことが喫緊の課題となった。ここにビジネスチャンスが生じた。

 だが、インドネシアは6千もの島に2億5千万人の国民が住む。同じ島国の日本と比べても、島を結ぶ送電網構築には、膨大な費用が必要となる。

 原発など大型電源は向かない。一つ一つの島に、再生可能エネルギーも活用した発送電システムを設けることが、理想といえる。九電工が開発した発送電システムの前には、大きな市場が広がっている。

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 インドネシアで進む社会基盤の整備は、電力に限らない。交通、通信などあらゆる社会インフラをめぐり、国際的な受注競争は激化する。

 日本企業の強みの一つは、九電工にみられる人と人とのつながりだ。日本貿易振興機構(ジェトロ)ジャカルタオフィスの山城武伸シニアディレクターは「日系企業の海外進出には、人材育成も含め一連のパッケージがある。他国と最も差別化できるポイントだ」と語った。

 受注競争の最大のライバルは中国だろう。

 中国の習近平国家主席は2013年10月3日、インドネシア国会に登壇し、演説した。中国共産党の機関紙「人民日報」のウェブサイト「人民網日本語版」(同4日付)によると、習氏は「中国はASEAN諸国(東南アジア諸国連合)と海洋協力パートナーシップをうまく発展させ、21世紀の『海上のシルクロード』を共同建設する」「中国は引き続きASEAN、アジア、世界と経済・社会発展のチャンスを分かち合う」と述べた。

 この年の春に就任した習氏は、経済・外交圏構想「一帯一路」を打ち出した。中国主導の経済圏、国際秩序づくりを目指した構想だ。中国は東南アジアなど各国で、社会インフラの建設支援を強力に進める。

 中国はインドネシアでも2015年9月、首都ジャカルタと西ジャワ州バンドン間約150キロを結ぶ高速鉄道を受注した。日本の新幹線は敗れた。

 電力インフラでも中国勢は、安価な太陽光パネルなどを武器に攻勢をかける。日本は個々の企業が対応するが、後手に回っている。

 2017年12月21日、ジャカルタ市内のホテルで、日本の国際環境技術移転センター(三重県四日市市)と、インドネシア商工会議所が、再エネの技術移転に関するMOU(基本合意)を結んだ。

 締結式に合わせ、10社を超える日本企業がジャカルタ入りし、もみ殻を使ったバイオマス発電など独自技術をアピールした。

 インドネシア商工会議所の再生可能エネルギー・環境副委員長、ハリム・カラ氏は、日本の技術力を認めた上で、こう語った。

 「われわれの国には、金がない。中国は金を用意する。日本からの提案は、そこが弱い。もっと努力してほしい」

 中国企業が受注したインフラ工事はその後、世界各地で延期や中止に陥った。それでも途上国にとって、中国側が提示する資金は魅力的に映る。