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「消防空白」…宮崎・鹿児島など29町村 救急業務、民間委託で活路
■人口減少や財源不足 対応急ぐ
消防本部や消防署を持たない自治体が、救急業務を担う民間企業の活用に熱い視線を送る。人口減少や財源不足で、自前での常備が困難なのがその理由だ。専門組織がない消防空白地帯は、離島や山間部を中心に全国で29町村を数える。今後、都市部への人口流出でそうした自治体が新たに出てくる可能性も指摘され、対応が急がれる。
●実践的な訓練
作業着姿の男性2人が、解体用のペンチ型の機材で軽乗用車のドアをこじ開けると、バキバキという大きな音が周辺に響いた。
宮崎市から車で約2時間の宮崎県美郷町役場で昨年、交通事故の負傷者救助訓練が行われた。消防署のない美郷町と近隣の計3町村で、救急現場の実務を担う役場の職員と消防団員が参加し「実践的な訓練で勉強になる」と好評だった。
平成29年の消防白書によると同年4月時点で、常備消防の「空白」自治体は宮崎に加え鹿児島、沖縄、東京、和歌山、徳島、香川の1都6県に存在する。
119番通報は役場が受け、火災の場合は消防団が、救急は当直職員が現場から医療機関に搬送する「役場救急」で対応する。
●美郷町が全国初
美郷町の訓練では、自治体から救急業務を委託された救急救命士らでつくる同町の民間企業「日本救急システム」の職員たちが講師役を務めた。
同社の白川透社長は、初めて同町を視察した際に「日本にこんな場所があるとは…」と役場救急の実態に衝撃を受けたという。
そこで、27年、居住地による医療サービスの差を改善しようと、救命救急業務を始めた。美郷町が全国で初めて救急業務の民間委託を同社に行った。
同社の救急救命士が役場に常駐し、通報を受けると役場職員が運転する救急車で現場へ急行する。心肺蘇生(そせい)や止血といった応急処置を施しながら搬送する。
美郷町の担当者は「安心感が全く違う。精神的負担も相当軽くなった」と打ち明ける。町職員は搬送は可能だが、処置はできない。搬送中に患者らが死亡する事例もあったという。
美郷町には常備消防を持たない自治体の視察が相次ぐ。29年4月には、徳島県勝浦町も同社への委託を始めた。同町の担当者は「常備消防を置くより費用の面でも安上がりだ」と話す。
新潟医療福祉大の大松健太郎講師(救急医療)は「過疎化が進む地方ではこの先、税収減で行政サービスが縮小し、常備消防の維持が難しくなる可能性もある。そうした中で、新たな選択肢として、民間企業が登場した意義は大きい。人口減少が進む中、地域に適した救急システムを考える必要がある」と強調する。