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【夢を追う】九州大「起業部」顧問・熊野正樹さん(1)学生の爆発力を後押し

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【夢を追う】
九州大「起業部」顧問・熊野正樹さん(1)学生の爆発力を後押し

九州大学学術研究・産学官連携本部准教授の熊野正樹さん。学生起業を支援し、「10年で学生ベンチャー50社、うち5社の上場企業創出を目指す」と語る 九州大学学術研究・産学官連携本部准教授の熊野正樹さん。学生起業を支援し、「10年で学生ベンチャー50社、うち5社の上場企業創出を目指す」と語る

 九州大学に公認の部活動「起業部」がある。顧問を務める学術研究・産学官連携本部准教授の熊野正樹さん(44)は、学生起業家の育成に情熱を注ぐ。「野球部員が野球をするように、起業部の学生は起業する。10年で学生ベンチャー50社、うち5社の上場企業創出を目指す」。学生と二人三脚で大きな夢を追う。

 《11月26日午後、福岡市中心部にある創業支援施設で、第1回九州大学ビジネスプランコンテストが開催された。起業を目指す8チームが、投資家や企業経営者に事業計画を発表した》

 8チームのうち、4チームは実際に起業間近です。初めてでしたが、大学主催のビジネスプランコンテストとしては、非常にレベルの高いものといえるでしょう。「全国大会で勝つよりも、この九大のコンテストで勝つ方が難しいのではないか」。そうコメントする審査員もいました。

 優勝は起業部所属のチーム「NOVIGO(ノビーゴ)」でした。ビジネスプランは大学の特許技術を用いた「シール型のワクチン薬」の開発・販売です。薬局やコンビニで製品を購入すれば、病院に行かなくても、予防接種ができる。「予防接種は病院で」という常識を覆すものです。

 《コンテスト出場の8チーム中6チームは、起業部に所属する。起業部は6月に設立された》

 昨年6月、九大に准教授として着任しました。1年あまり準備に時間がかかりましたが、今年6月23日に起業部をつくりました。

 サッカー部がサッカーを、野球部が野球をするように、起業部では学生が起業をする。

 入部条件は、起業への強い意志です。

 部費は年間1万円と、学生にとって安くない金額に設定しました。学生に覚悟を求めたのです。こうした条件をクリアし、150人が入部しました。希望者はもっといましたが、100人以上断ったでしょう。

 部員は起業という目標に向けて、チームでビジネスプランを作成し、国内外のコンテストに応募する。コンテストを通じて、プランをブラッシュアップし、実践的活動に取り組む。

 顧問の私だけでなく、国内外の起業家やベンチャー企業を対象にした投資家ら50人が、ネットワークをつくり、支援する。

 まだ半年なので、基本的なことしか教えていません。それでも、九大の学生には高いポテンシャルを感じます。

 これから毎年、可能性を秘めた新入生が入ってくることを考えると、期待が膨らみます。成果が楽しみです。「九大起業部旋風」を巻き起こしたいですね。

 《地方銀行に勤めた後、大学院で起業を学び、実際に映像制作・経営コンサルティングの会社を創業した》

 私が歩んだ道は、アカデミズムの世界では異色でしょう。

 同志社大卒業後、銀行に入ったのですが、向いていなかった。決められたことをきちんとやるのが、苦手だったんです。

 しかし、仕事で知り合った経営者の姿に触発され、ベンチャーに興味が沸きました。起業家を目指して仕事を辞め、大学院へ戻ることにしたんです。

 同志社大大学院商学研究科ベンチャーコースの起業家育成コースに入りました。入学式で言われた恩師の言葉が、深く印象に残っています。

 「君たちの目的は修士論文を書いて大学院を修了することではない。一日も早く、ここから巣立ち、起業家として世に出ることだ」

 恩師の紹介や知り合った縁をきっかけに、いろいろな所でいろんな仕事を経験しました。

 ただ、起業が容易でないことは、経験からわかっているつもりです。

 院生1年目のことです。夏休みに「ビジネスプランを書いてみなさい」との課題が出ました。気楽に書いて、ニュービジネス協議会のコンテストに応募したんです。すると優秀賞を受賞した。東京・六本木で開かれた表彰式にも出席した。平成11年でした。

 ちなみにそのときの優秀賞はもう一人いました。化粧品や美容の口コミサイト「@cosme(アットコスメ)」の吉松徹郎さんです。

 私のビジネスプランは、病院の患者や同じ病気の人をオンラインでつなぐコミュニティービジネス、今で言うSNSのはしりです。まかり間違っていれば、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏のようになっていたかもしれません(笑い)。

 ネットバブル前夜で、空前のベンチャーブームでした。ベンチャーキャピタルなどから「投資したい」との話が、いっぱい舞い込みました。数千万円単位の投資話もありました。

 でも、チャンスを生かせず断った。リスクを恐れたんです。踏み出す勇気がなかった。

 学生がチャンスがあっても起業できない気持ちがすごくよく理解できる。だからこそ、学生の肩を押してやりたい。

 《学生に起業は向いていると考える》

 起業を志す人にとって、今の日本は「スタートアップ天国」といえるのではないでしょうか。ベンチャーキャピタルなど資金の出し手も増え、官民挙げた支援態勢も整っています。

 ところが、肝心の起業家が少なく、ベンチャー創出は芳しいといえない。それが実情です。

 大学には起業を志す学生が一定の割合で存在します。学生がベンチャー創出の担い手になってくれれば良いと考えます。

 世間では「学生に起業など早い」という声もある。確かに知識や経験は少ないかもしれないが、若さには何よりもエネルギー、爆発力がある。

 マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏しかり、ザッカーバーグ氏しかり。みんな学生時代に起業した。

 また、出資を受けての起業は、融資を受けるのとは異なります。仮に事業に失敗しても、個人が負債を背負う事態にはならない。極端にいえば、「ノーリスク・ハイリターン」です。

 こうした点から考えて、学生が起業するのは、理にかなっている。うまくいかなければ、就職すれば良い。採用側の企業から見ても、起業家精神を持った即戦力の学生は、引く手数多(あまた)でしょう。

 いま九大には、2万人以上の学生や研究者が在籍しています。学内にはアントレプレナー(起業家)の育成組織「QREC」もあり、起業部との相乗効果も期待できます。

 起業部は1年に平均5社、10年間で50社の学生ベンチャーを創出し、うち5社は上場を目指せるよう持っていきたい。経産省が調査した大学発ベンチャー企業の大学別数で、九大は東大や京大などに次いで5位です。これから、首位を目指します。