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「ゲノム編集」技術、基礎に日本の研究 九州大・石野良純教授、特殊なDNA配列を発見

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「ゲノム編集」技術、基礎に日本の研究 九州大・石野良純教授、特殊なDNA配列を発見

 生物のDNAを自在に切り張りする「ゲノム(全遺伝情報)編集」が、注目されている。中でも「クリスパー・キャス9」と呼ばれる改変技術は、病気の究明や家畜の改良など、さまざまな分野で実用化が進み、数年内のノーベル賞間違いなしといわれる。この技術の基礎となったDNAの繰り返し配列は、およそ30年前、石野良純氏(60)=現九州大学大学院農学研究院教授=らが発見した。(高瀬真由子)

 昭和58(1983)年、石野氏は大阪大学微生物病研究所にいた。そのころ、生命の仕組みを、遺伝子レベルで研究する動きが始まっていた。

 石野氏は、指導教官だった中田篤男氏=現阪大名誉教授=の下、大腸菌の酵素研究に参加した。酵素の一種「IAP」の働きを解明しようと、遺伝子研究をいち早く、取り入れていた。

 日課は、DNAの塩基配列を読むことだった。

 ■CGGTTTA…

 地球上のほとんどの生物の遺伝情報は、それぞれDNAの塩基配列で記述されている。生物の形質の設計図というだけではない。生命維持に欠かせない膨大な種類のタンパク質を、どのように生み出すかなど、生命システムそのものが書かれている。

 石野氏は、放射性リン酸塩を使って「G」「A」「T」「C」という塩基配列を読み取った。

 地道な作業だった。暗室でフィルムを現像液に浸し、1つずつ配列を確認する。不鮮明な画像に手を焼いた。石野氏が配列を読み上げ、中田氏がコンピューターに打ち込む。2人並んで机の前に座り熱中した。

 「1日15時間閉じこもっても、読めるのは300~350くらい。今は蛍光による自動装置で、結果をコンピューターのディスプレーに表示できますが、当時は全て手作業でした」

 DNAのある部分に「CGGTTTA…」という配列が、規則正しく繰り返されていることに気付いた。同じ配列は5回、繰り返されていた。

 「あまりにもきれいに並んでいる。何か意味があるんだろう」

 直感した。だが、生命活動に何の意味があるかは、分からなかった。

 昭和62(1987)年、中田氏ら研究チームのメンバーと、酵素「IAP」に関する論文を発表し、繰り返し配列のことも記した。石野氏はその後、米エール大に赴任し、別の研究に没頭した。奇妙な配列のことは忘れた。

 この配列は後に「クリスパー」と名付けられた。

 ■爆発的な普及

 1990年代。塩基配列の解析速度が飛躍的に高まった。細菌、植物、そしてヒトと、さまざまな生物のDNA解析プロジェクトが動いた。

 その中で、ある研究者が、古細菌でクリスパーを確認した。

 2000年代になると、クリスパー配列が免疫機能と結びついていることが、明らかになった。

 仕組みはこうだ。

 細菌にウイルスが侵入した場合、クリスパーとクリスパーの間に、ウイルス由来のDNA情報を取り込む。後に、同じウイルスが侵入すると、クリスパー間に収集した情報を基に、「キャス9」と呼ばれる酵素が、ウイルス由来のDNAを切断・破壊する。

 この仕組みを応用すれば、DNA上の標的とする遺伝子を、正確に切り取り、情報を挿入することもできる。ゲノム編集だ。「クリスパー・キャス9」を、米国とドイツの研究者が開発した。シンプルで柔軟性が高く、世界中の研究者が飛びついた。

 ゲノム編集の爆発的普及で、石野氏の論文は頻繁に引用されるようになった。

 石野氏は「クリスパー・キャス9を使ったゲノム編集によって、病気の原因遺伝子の特定や、改変もできるようになると思う。広がりは確実に出てくるし、役に立つ技術も開発できる。間違いなく、人類にとって大きな貢献となる。そこに自分の論文を引用してもらえるのは、非常にありがたい」と語った。

 ■美しい二重らせん

 大阪で育った石野氏は、大阪万博(昭和45年)に何度も足を運び、日本の成長や科学の進歩を実感した。高校の生物の教科書で、DNAの二重らせんを美しいと感じたことをきっかけに、生命に関する研究に興味を持った。

 常に、人がやらないことを追究した。「研究に大切なのは、誠実であることと、オリジナリティーだ」と語った。

 石野氏は現在、高温など特殊な環境に生きる古細菌の研究に取り組む。大分・別府の温泉などに、サンプル採取に出向く。

 「古細菌の研究は、宝がいっぱい詰まっている。どうやって生命を維持しているかが分かれば、生命の起源に近づく手がかりを得られる」と期待する。

 「特殊なものを見つけたら、何か意味がある。それを見逃すな」。後輩の研究者に、こう伝える。