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「やまゆり園」入所者の転居完了 寂しさ、不安…横浜で新生活始まる

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「やまゆり園」入所者の転居完了 寂しさ、不安…横浜で新生活始まる

 入所者19人が刺殺されるなどした相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、事件後も利用を続けていた入所者らの仮移転先への転居が完了した。やまゆり園は、取り壊しは決まっているものの、同じ場所で建て替えられるかどうかは不透明な状況。近隣住民からは「寂しい」「また戻ってきて」と別れを惜しむ声が相次いだ。慣れない環境に不安も募るなか、入所者らの新生活が始まった。(河野光汰)

 ◆思い出の場所

 入所者の高月淳子さん(61)の親類である野崎裕子さん(61)は、今月初め、やまゆり園で高月さんと交わした会話が印象に残っている。仮移転先の「津久井やまゆり園芹が谷園舎」(横浜市港南区)への引っ越しに向け、荷造りが一段落したころ。いつもより片付いた部屋で、声をかけた。

 「淳子さん、もうすぐ移らなきゃいけないね」

 「うん…」

 高月さんは弱々しくうなずいた。枕元に最後まで置いてあったお気に入りのぬいぐるみが、愛着のある施設への思いの深さを物語っているように思えたという。

 野崎さんは「彼女にとっては思い出が詰まった場所。寂しい気持ちがあったと思う」とおもんぱかる。

 園の近くに住まいがある野崎さん自身にとっても、やまゆり園は幼いときから身近な存在だった。「入所者の方と焼き物を一緒に作ったり、お祭りに行ったり。地域で育った人なら誰でも同じような経験がある」と振り返る。

 ◆ヒアリング実施へ

 やまゆり園は県立施設として昭和39年に開園。多くの地域住民が職員に雇用され、周辺にはいまだに元職員が多く住んでいる。開園の翌年に、当時の相模湖町主催で行われた成人式に、成人の入所者が出席するなど、早くから地域に受け入れられてきた。

 ただ現状では、元の場所に同規模の障害者施設が建つかどうかは分からない。

 県は当初、平成32年度までに建て替え完了を予定していたが、障害者団体などから地域の小規模施設に入所者を移すべきだとの意見が相次ぎ、建て替えの是非を再検討している。

 入所者から直接、意見を聞き取るべく、園の元職員や各自治体の障害福祉担当らからなる「意思決定支援チーム」の編成も決定。元の場所に戻りたいか、別施設に移りたいかなどのヒアリングを今後、入所者に対して行う方針だ。

 園の警備員だった杉本寿さん(68)は「入所者が戻ってきたら、地域の人間としてもっと交流をしたい」。別施設への再就職も一時検討したが、やめたという。

 ◆適応には時間も…

 仮移転先の芹が谷園舎では、やまゆり園での生活スタイルを踏襲するべく、建物のリフォームなどを済ませた。入所者は、以前と同様に十数人程度の「ホーム」と呼ばれるグループに分かれて生活し、就寝時などには個室を利用できる。園舎での生活は約4年間が予定されている。

 一方で、山間ののどかな場所にあったやまゆり園とは違い、周辺の交通量など周囲の環境には大きな違いがある。入所者家族からは「適応するには時間がかかるだろう」と不安の声も上がる。

 入所者約110人の転居は今月21日に完了。翌22日には転居後初めて家族会が開かれ、今後の生活について説明などがあった。

 津久井やまゆり園を運営する社会福祉法人「かながわ共同会」の米山勝彦理事長は「芹が谷の地を『新しい暮らしの場』として、一日も早く安定した生活を送っていただけるよう、全力で取り組んでいきたい」と話した。

                    ◇

【用語解説】相模原殺傷事件

 昨年7月26日、相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者が次々と刃物で刺され、19人が死亡、職員2人を含む26人が負傷した事件。県警は殺人や殺人未遂容疑などで元施設職員、植松聖(さとし)被告(27)を逮捕、追送検し、横浜地検は昨年9月21日から今年2月20日まで5カ月間の鑑定留置を実施して、刑事責任能力があるとの精神鑑定結果が出たことから同月24日、殺人罪などで起訴した。