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【種蒔く人々】鹿児島県長島町前副町長・井上貴至さん 若い人材を招き入れる

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【種蒔く人々】
鹿児島県長島町前副町長・井上貴至さん 若い人材を招き入れる

 私は平成27年4月に長島町に着任しました。そのとき、大変難しい宿題をいただきました。

 川添健町長は、国から多額の補助金や地方交付税をもらい、とにかく大きなホテルを作りたいという願いがあるとうかがいました。

 ただ、大型の宿泊施設を長期間、適切な形で運営するのは難しい。

 10年先に町の「お荷物」になってはなりません。私は町長に東京ディズニーランドのように少しずつ広げるなど、さまざまな提案をしました。

 JR九州の青柳俊彦社長からも、同様の観点からアドバイスをもらいました。ただ、町長の思いは変わりません。ならば町長の力強い思いを具体的な形にしようと、腹をくくりました。町長を支えるのが副町長の役割です。

 ただ、公設公営ではとても未来に責任を持てません。そこで民間企業の誘致を考えました。

 そのためには、企業が町に進出しやすい環境を構築するのが大切です。鹿児島相互信用金庫や辻調理師専門学校、阪急交通社といった企業などとの連携を強め、ホテル経営を支援する態勢を整えました。

 一方的なお願いはしません。(1)ウィンウィン(相互利益)の提案をする(2)相手の懐に飛び込み、信頼関係を構築する(3)意思決定を速める-の3点を心がけました。

 こうした積み重ねの結果、ある企業がホテル経営に手を挙げてくれました。来春、開業予定です。安心しました。

 まちづくりとは、いかに補助金を国から取ってきて、配るかだと捉えている人は少なくありません。ただ、日本の国と地方との借金は合計で1千兆円以上あるのです。近い将来、そんな補助金制度はなくなるかもしれません。

 長島町はもともと、イワシ漁の基地でした。いずれイワシが取れなくなると見越した先人が、いち早くブリ養殖に転換したのです。

 そしてわが国で初めて、食品衛生管理の手続きを定めた国際基準HACCP(ハサップ)認証を取得するなど、常に挑戦を続けた。だからこそ、世界一の養殖ブリ生産地という、今があるのです。

 一方、イワシをなおも追い求めた地域は、衰退したようです。やはり、ビジネスモデルの転換を恐れてはならないのです。

 古今東西、地域の発展に一番重要なのは、若くて優秀な人材を育て、集めることだと感じます。

 かつての大阪がそうでした。和歌山からはパナソニックの創業者、松下幸之助氏が、山梨から阪急グループ創始者の小林一三氏、台湾から日清食品を創業した安藤百福氏ら多士済々が集まり、活躍しました。

 特に長島町のように高校や大学がない自治体は、人口ピラミッドで16~24歳の人口がくぼむ「杯型社会」になります。

 高齢者ばかりだと、それまでの経験に拘泥しがち。新しい挑戦に二の足を踏みがちになります。子供にとっても身近な、あこがれる先輩が少なくなり、可能性や人生の選択肢が狭くなることも少なくありません。

 杯型社会では若い人材をいかに招き入れ、活躍できる環境をつくるかが、何よりも重要です。町にやってくる若者に、旅費を支援するのも有効な策でしょう。

 また、地元の中学生らに効果的に勉強する方法を教えたり、町をPRするコマーシャル番組を制作したり。若者が、そんなとっつきやすい機会を受け入れる側で提供するのも大切です。

 町は「鎖国」してはなりません。

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【プロフィル】井上貴至

 いのうえ・たかし 昭和60年、大阪府生まれ。平成20年、東大法学部卒業後、総務省に入る。愛知県市町村課、内閣官房拉致問題対策本部事務局などを経て27年、地方創生人材支援制度の第1号として鹿児島県長島町に赴任し、同年7月から今年3月末まで副町長。4月から愛媛県市町振興課長。座右の銘は「ミツバチが花粉を運ぶように、全国の人をつなげたい」。共著に『ソーシャルパワーの時代』(産学社)。