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【みちのく会社訪問】林養魚場(福島県西郷村) サケ・マス養殖 常に攻めの経営

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【みちのく会社訪問】
林養魚場(福島県西郷村) サケ・マス養殖 常に攻めの経営

 昭和10年創業の国内最古参の養魚場だ。福島、宮城、愛知3県に120を超す池を持ち、十数種のサケ・マス類を卵から一貫養殖して、年間400トンを出荷する国内最大手の養魚場でもある。

 事業は、3つの池でニジマスの稚魚3万匹を養殖するところからスタート。当時、内水面(池などの淡水)の養殖は誰も手掛けたことがない。「餌は? 魚の管理は? 出荷先は?」…。万事手探りで試行錯誤の連続だった。「創業者の父は、それは大変苦労していましたよ」と、会長の林愼平さんは振り返る。

 ◆苦境を乗り越え

 一つ山を乗り越えても、苦難は続く。林さんも社長時代に大きな試練を味わった。平成10年の豪雨災害では養魚場や釣り施設が流失するなど壊滅的な被害を受けた。一貫養殖の手法が災いし、「売るものが全くない状態が2年続いた。倒産を覚悟した」。

 苦境にあえぐ中、ある従業員が切り出した。「家族全員の貯金を下ろしてきた。会社のために使ってください」。この一言に胸を打たれた林さんは、心に誓った。

 「この会社に入って、本当によかったと思える職場にする。これが経営者の責任なのだ」

 養殖技術の研究にさらに熱を入れた。中国、タイ、ベトナム、米国、イスラエル、デンマーク、ドイツ…。世界を駆け回った。「特に、少量の水で多くの魚を養殖するノルウェーの技術には驚かされた」と林さん。

 学んだ技術、手にした情報を基に挑んだ。10年ほど前には、カナダのニジマスを改良した「阿武隈川メープルサーモン」を売り出し、人気商品として定着した。

 だが、最先端技術を導入し、新たな養殖プラント構築を進めていた中で、今度は東日本大震災に見舞われた。東京電力福島第1原発事故の風評は今もつきまとう。

 「一息ついたと思ったら、また困難。私は苦境に立つと、『こんなことで負けてたまるか!』と、さらに攻めの経営方針に変える。従業員はさぞ苦労しているでしょう」と笑う。この言葉通り、震災の半年後には愛知県田原市で最新技術を集めた養殖プラントを着工。平成27年5月に完成し、魚の養殖が始まっている。

 川の水で養殖するには毎秒3~4トンが必要だが、新プラントなら毎分500リットルに抑制できるという。魚の呼吸や排泄(はいせつ)物などから発生する炭酸ガスを水中から取り除き、水を循環させる全自動のシステムが大きく作用しているのだ。

 ◆総合的プラント展開を

 また、プラントには野菜の栽培場が併設されており、取り出した炭酸ガスや回収した排泄物や残滓(ざんし)は肥料として活用するという。養殖設備だけでなく、総合的なプラント展開を目指しており、「首都圏の鉄道会社や大手電機メーカー、地方の有力企業などが関心を寄せている」という。

 回転すしなどで人気のサーモンだが、国内の養鱒(ようそん)業者は減少の一途。ピーク時に年間1万8千トンあった生産量も5千~6千トンに落ち込んでいるという。

 それでも、「生き残るためにはチャレンジを続けるしかないんですよ」と力を込めた。 (竹中岳彦)

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 ◆企業データ

 福島県西郷村後原66。(電)0248・25・2041。資本金1千万円。従業員はパートを含め約80人。サケ・マス類の養殖、加工販売や養殖用施設・機械の製造販売、釣り施設5カ所の運営などを手掛ける。カナダ原産のニジマスを改良した「阿武隈川メープルサーモン」や釣り具などは通信販売でも入手可能。URLは、http//www.hayashitrout.com

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 【取材後記】林さんは、福島と栃木県境の黒川周辺で、日本一の花の山を作ろうと、約45ヘクタールの里山の整備や植樹に取り組んでいる。名付けて「花野華(はなやか)」。菜の花やスイセンのほか、レンゲ3000株、アジサイ1万本、桜5000本…を順次植え付ける。プロジェクトには「福島を明るくしたい」という願いが込められている。日本一までまだ時間が必要だが、一体どんな山になるのだろう。今から楽しみだ。