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【みちのく会社訪問】袰月(ほろつき)海宝(青森県今別町)

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【みちのく会社訪問】
袰月(ほろつき)海宝(青森県今別町)

 ■古里に若者を 雇用確保に挑む

 津軽半島の先端に位置し、昨年3月に開業した北海道新幹線「奥津軽いまべつ駅」がある青森県今別町で、地元産の海藻を起爆剤に地域活性化と雇用の確保に取り組む。県内でも特に高齢化が進む同町に少しでも若者を呼び込みたいと、一念発起した小倉龍毅(りゅうき)代表(73)。「ここで働く場を作ることは街づくりにつながる」。小さな会社が大きな一歩を踏み出した。

 ◆豊富な海藻を資源に

 眼前に海が広がる袰月(ほろづき)地区。ここで生まれ育った小倉さんにとって、海は身近な存在だった。青森市内の高校を卒業後、郵政省(現総務省)に入省し、建築に携わった後、ゼネコンに転職した。だが、東京で暮らしていたときも、帰省する度に古里が廃れていく姿に心を痛めた。

 「私が子供の頃、袰月はにぎやかだったが、少子高齢化でこのままでは地区がなくなってしまう。何とかしなければと思った」。古里で老後を過ごしたいと思っていたこともあり、定年を迎えた65歳で妻とともにUターン。「風光明媚(めいび)な袰月に誇りを持っている」

 しかし、基幹産業の漁業は高齢化と後継者不足で疲弊。そこで、海藻が豊富な地域資源を利活用しようと漁業権を取得し、平成24年2月に会社を立ち上げた。

 「天然物は肉厚で歯応えがあり、コクもある。これを生かさない手はないと思った」。ワカメ、もずく、コンブなどの生産、加工、販売を自前で行う「6次産業化」によって、コスト削減と地元への還元を図っている。昨年は約500万円の売り上げを計上した。

 さらに、今年からは県産業技術センターの補助金を受け、「焼干灰わかめ」も販売する予定だ。わらの中に採れたてのワカメを入れ、焼きながら灰をまぶし袋詰めした保存食で、灰による保存効果で天然ワカメのうま味を味わうことができる商品だ。

 灰ワカメに目を付けた理由は、北海道新幹線開業で土産物の開発を進める中、昭和30年代に袰月地区に伝わった伝統の技を復活させることで町のアピールにつなげようという狙いがある。小倉さんは「都内の料亭などにPRしたい」と意気込む。

 ◆「子供の声響かせたい」

 小倉さんの狙いである雇用の場の確保と若者の定住促進に共感した一人の若者が今春、同町に移住して会社を手伝うことになった。青森公立大(青森市)で地域活性化の活動を続ける中で同町に魅せられた依田啓夢(ひろむ)さん(4年)=甲府市出身=だ。

 「少子高齢化に直面する今別町を何とかしたいと思った。若者が関わる場を作り、働く環境を作ることで町を変えていきたい」と決意を語った。

 小倉さんは言う。「若い人が来ると地元の見方が変わる。カモメの鳴き声しか聞こえない袰月地区に子供の声を響かせたい。これからも若者の雇用に取り組む」

 海藻という袰月地区の“海の宝”を生かさない手はない。会社名に込められた小倉さんの熱意に町づくりの原点と光明を垣間見た。(福田徳行)

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 ■企業データ

 青森県今別町袰月31。(電)0174・36・2011。地元からパート4人を雇用。4~6月のワカメ、7~8月のもずく、その後のコンブなど、袰月地区で採れる天然の海藻を「袰月天然岩わかめ」「茎わかめ」「岩もずく」などとして販売。天然ならではの深い味わいと食感が人気。通販での購入・問い合わせなどは同社のホームページで。「袰月天然岩わかめ」で検索できる。

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 【取材後記】今別町は人口約2800人、高齢化率48.4%(平成27年1月現在)と県内で最も高齢化が進む。町によると、特に袰月地区は38世帯65人のうち、65歳以上の高齢者が実に46人を占め、限界集落と化している。こうした中、幼少の頃の古里のにぎわいを取り戻そうと65歳で起業した熱意に感銘を受けた。人生経験豊富な小倉さんの貴重な話を聞いて、行政に頼らず自ら行動を起こす勇気と発想力が、いかに地域おこしを進める上で重要かということを再認識した。