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【上州新フード事情】スパークリング清酒「水芭蕉ピュア」

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【上州新フード事情】
スパークリング清酒「水芭蕉ピュア」

 ■失敗700回 世界の極上目指す

 吟醸酒が定着した今、シャンパンを思わせる発泡する日本酒がブームだが、よく見ると、製法や完成度は随分と違う。その中で、最高峰にたどり着いたのが永井酒造(川場村)の「MIZUBASHO PURE」(水芭蕉ピュア)。構想から10年、7百回に及ぶ失敗の末に製法を確立した6代目社長、永井則吉さん(44)の足跡は、世界への挑戦そのものだ。

 ◆人生変える一杯

 酒造りを仕事と決めた22歳のとき「人生を変える一杯」に出合う。偉大な仏ワイン「モンラッシェ」のヴィンテージ。今も忘れられない味に「これが世界か」と衝撃を受けた。肩を並べる日本酒を造りたい。修業の傍らワインの利き酒と書籍を読み漁(あさ)った。ワインはなぜ世界のブランドになったのか。料理に合わせ赤や白、シャンパンと多様だからだ。では日本酒は? ヴィンテージ造りとともにコース料理のスターター、つまり乾杯酒としてシャンパンのように泡立つ日本酒を造ろう。平成10年のことだった。

 発泡性ワインは多いが、シャンパンは仏シャンパーニュ地方で厳格な製法のもと造られるスパークリングワインだけの呼称。その製法でいく。発酵途中のにごりを残した状態で瓶に詰め発酵を進める「瓶内2次発酵」でシュワシュワ感を生む炭酸ガスを閉じ込める。このガス圧をシャンパンと同じ5~6気圧にし、にごりのない透明な日本酒にする。アルコール度数も同じ13度。日本酒の風味も失わない。いくつもの基準を課し製法を吟味し5年後、試作を始めたが、失敗が続いた。

 「まずガス圧が上がらない。上がったと思って澱(おり)を引くと圧が落ちる。シャンパンは発酵を促す糖を加えられるけど、日本酒でそれをやると税法上、リキュールに格下げされる」。濁り酒と透明な酒のブレンドしかないと配合比率を探り続ける。3年で5百回。それでもできなかった。

 壁にぶち当たり本場シャンパーニュに渡った。「だめなら諦める」覚悟で学ぶ中、書籍にも載っていないことに気づく。温度管理だった。

 「単純すぎて笑っちゃいましたが、瓶内2次発酵での肝でした」。そこからの2百回は完成へのステップ。配合、澱を引くタイミング、求める味へと近づけていった。

 20年に完成し、製法特許も取った。専門家も「間違いなくリーディングカンパニー」と太鼓判を押すが、価格が720ミリリットルで5千円近く、世界初の冠と透明感ある品質を伝えるのに苦労した。だが、京都の吉兆はじめ、仏やスペインの三つ星レストランは理解して食前酒に採用し、国際的評価も高まりつつある。

 ◆ブランド化図る

 一方で大事な基準は「共有しないと普及しない」。昨年11月、八海山(新潟)や南部美人(岩手)、七賢(山梨)など名だたる銘酒の7蔵元と「awa(あわ)酒協会」を立ち上げ理事長に就任した。製法は守って各蔵元が造る酒をawa酒と総称し、ブランド化を図る。夢は「東京五輪で、シャンパンに代わる各パーティーの乾杯ドリンクに」。和食とともに世界に認めさせたい。

 永井さんはシャンパーニュに「未来の川場村を見た」という。蔵元見学の観光客であふれ、地元民はシャンパンを地域の宝と誇り、農家は裕福だった。初代がほれ込んだ美しい水を有す川場村を「地域ごと世界に引き上げます」。(住谷早紀)=おわり

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 ★NAGAI STYLE 「水芭蕉ピュア」はコース料理の乾杯酒。これに続く魚介料理用に「大吟醸水芭蕉」、肉料理には熟成させた「VINTAGE SAKE」、デザートのチーズやチョコには濃厚な甘さの「DESSERT SAKE」。永井さんは料理ごとに用意する「NAGAI STYLE」を提案。パリのレストランを貸し切り提供したところ、現地の人々から絶賛された。