産経ニュース

【種蒔く人々-地方創生】小国町副町長・桑名真也さん(1)

地方 地方

記事詳細

更新

【種蒔く人々-地方創生】
小国町副町長・桑名真也さん(1)

 ■焼け跡で感じた住民との距離

 「みんなにまた会えて本当に良かったばい。それがなによりやけんね」

 平成28年10月10日、熊本県小国町の中心市街地で火災が発生した。着の身着のままで逃げた被災者の一人が、一時避難所となった寺で同じように避難している他の被災者に、こう繰り返した。

 火は5時間にわたって燃え続け、延焼面積は約4200平方メートル、14棟が全半焼した。現場にはいまなお、焼け跡独特の臭気が立ちこめている。

 わずかな時間で、被災者の人生を彩ってきた大半のものが、無慈悲に焼失した。本火災における唯一の救いは死傷者がいなかったことだ。発生の時間帯や災害規模から考え、奇跡といえるかもしれない。

 奇跡を実現したのは住民同士のつながりであった。

 小国町では「組制度」というものを敷いている。10~15世帯を1組として、町の広報紙を配布したり、清掃活動に取り組む。

 結びつきは濃厚だ。今回の火災のエリアでも、組長が各家の間取りはおろか、住民の就寝場所まで把握していた。だからこそ、迅速に避難誘導が可能となった。都会では考えられない救出劇であったといえよう。

 もちろん家の間取りや就寝場所まで把握されることを、快く思わない方もいるだろう。これは個人の自由意思なので、憲法が保障しているように、望むところに居を構えれば良い。

 本火災において町は、発生したがれき撤去に、公費を支出することにした。基本的には被災者が片付けなければならず、これは異例の対応だ。この判断に町内は百家争鳴となった。

 「なんのための火災保険だ」「焼け太りする被災者がいるのではないか」

 しかし、町は被災者に寄り添った行政を貫徹することを優先した。この思いに県が応えてくれた。県は、町の負担の半分を財政支援してくれるスキームを新たに構築した。

 公費支出といっても全額ではなく、被災者に一部の負担金を求めた。さらに、町への負担金を超える保険金が、がれき撤去で支払われた場合、超過分を町に寄付するようお願いした。

 個人は自己の利益促進に最も合理的な手段を選択する-。そんな「合理的選択理論」によれば、誰も寄付などしない。

 しかし、支払われた保険金を寄付してくれた方が現れた。「町が被災者のために頑張ったのだから、それに報いたい」とのことである。行政の思いが被災者に通じ、被災者も呼応してくれたと感じた瞬間だった。

 行政は、法令順守はもちろん、公平性や透明性を確保しながら住民の福祉増進を図らなければならない。冷淡な組織体と感じている方もいよう。

 しかし、首長をはじめ、どの行政官も住民の福祉増進に並々ならぬ強い情熱を注いでいる。住民のために何ができるか-。これを考えるには、住民との対話が必要である。近ければ近い方が、小さければ小さい方が、より住民の思いに耳を傾けることができよう。

 人口減少、少子高齢化、東京一極集中など、「地方創生」を進めるべきだとする理由は論をまたない。

 ただ、住民同士の固い絆と基礎自治体、特に小規模市町村の行政と、住民の思いが通じ合う距離間を懸命に維持する。これもまた、地方創生を進める大きな理由となるのではないか。

                   ◇

【プロフィル】くわな・しんや

 昭和60年3月、兵庫県姫路市生まれ。平成20年3月、東京大教養学部を卒業後、4月、総務省入省。群馬県市町村課、消防庁予防課危険物保安室、総務省地域情報政策室、外務省在ヨルダン日本国大使館、総務省自治大学校研究部員を経て、28年4月から現職。

                   ◇

 地方再興を目指し、各地で汗をかく人がいる。現場で種を蒔(ま)く人の意見を紹介する。