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【みちのく会社訪問】わらび座(仙北市) ミュージカル軸に町おこし

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【みちのく会社訪問】
わらび座(仙北市) ミュージカル軸に町おこし

 秋田の偉人を題材にしたミュージカルを上演する劇団「わらび座」は今年で創設65周年。当初は政治的色彩のある劇団だったが、事業の多角化を進め、現在ではあきた芸術村(秋田県仙北市)のわらび劇場を拠点に温泉ホテルや、地ビールなどの関連事業が劇団を支える「メディアミックス」の先駆的な存在だ。山川龍巳社長(64)は「劇団が地域に根ざすには観光や教育と結びつく必要がある」と自治体や商工会議所などと連携し、ミュージカルによる町おこしを進めている。

 ◆地元の偉人が題材

 「♪走る、走る、リキノスケ走る♪」と軽快なメロディーが印象に残るミュージカル「新リキノスケ走る!」は明治から大正時代の農業指導者、石川理紀之助の人生を描く。11月から来年2月末まで秋田市内でのロングラン公演で、わらび座が一昨年、上演した作品の改訂版だ。中心市街地の活性化の観点から文化庁の推進事業となっており、県や秋田市、商工会議所の支援を得て上演中。チケット半券で、指定店舗で割引などのサービスも受けられる。

 11月末の平日午前の回は、中学生の団体と中高年女性の観客が多数。終演後、「面白かったわあ」と満足した女性が、あきた芸術村の専用劇場、わらび劇場で公演中の「ハルらんらん-和崎ハルでございます」のチケットを購入していた。こちらは秋田県初の女性代議士を描いた作品で、4月に公演を開始し、来年1月まで続く。

 いずれもわらび座のオリジナルで「地域に貢献した人を次世代に伝えていきたい」と山川社長。制作には宝塚歌劇団や劇団四季の出身者をはじめ一流の演劇人を起用し、東京の大劇場で上演されている作品と遜色ない質を維持している。公演回数も年約1千回、動員数は約24万人を数える。

 ◆演劇で教育・研修

 わらび座は昭和26年に前身の劇団が東京で発足、メンバーに秋田出身者がいたことで拠点を秋田に移した。当初は市民運動と結びついていたが、現会長の小島克昭氏が事業の多角化を進めた。敷地内のホテル「温泉ゆぽぽ」の宿泊、併設するレストランでの食事とセットで公演を見に来る客も多い。提供される田沢湖ビールは県産モルトを使った県第1号の地ビールで、11月にドイツで行われたビールコンテストで金賞を受賞するなど国際的にも評価が高い。

 東日本大震災では直接的な被害のなかった秋田県だが、わらび座は東北への観光客が激減したあおりを受け観客動員が大きくダウンした。ようやく震災前の水準に戻ってきた昨年以降、力を入れているのは演劇による教育や研修だ。

 「俳優はコミュニケーション力が必要。通じるものがある」と山川社長。「新リキノスケ…」を活用した一般市民向けのワークショップも開講中で、第1回が3日に開かれた。講師は脚本・演出の栗城宏氏で、即興芝居などを指導し、高校生ら約30人が参加した。地域と密着した、地方劇団の新しい活路といえそうだ。 (藤沢志穂子)

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 ■企業データ 仙北市田沢湖卒田早稲田430。(電)0187・44・3311。昭和26年劇団創業、46年に法人化。あきた芸術村で「わらび劇場」、ホテル「温泉ゆぽぽ」、レストラン「田沢湖ビール」を運営するほか、男鹿半島でもホテルを経営。多角化した事業が劇団を支える。芸術村の来場者数は年間約25万人。資本金4900万円、従業員250人。平成27年度の売上高は18億7千万円。

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 【取材後記】短期間だが、東京で演劇記者だった時期がある。「まともな演劇は東京でしか見られない」が舞台ファンの常識。だが、わらび座のミュージカルは、その常識を覆すレベルの高いものだった。地方の埋もれた歴史を、人物に光を当てて紹介することは、政府が目指す地方への外国人観光客誘致のきっかけにもなり得る。願わくば外国語対応など、よりいっそうの工夫を期待したい。