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【かながわ美の手帖】柳幸典「ワンダリング・ポジション」

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【かながわ美の手帖】
柳幸典「ワンダリング・ポジション」

 ■テーマは現代文明批判? 「どう感じるかは自由」

 暗闇に直径1メートルほどの大きな目玉が光る。近寄ってみると、目玉は、巨大アートの一部だ。土嚢(どのう)袋の上に木くずやイス、布団、車のスクラップの一部など廃棄物が大量に積み重ねられ、小さな山を作っている。その中心にある目玉には、原爆や戦争、三島由紀夫の演説シーンなどが映し出される。

 ◆土嚢袋にダブるゴジラ

 今年5月、福島県飯舘村を歩いた柳幸典(57)は、山積みにされた、放射性物質を除染した土の入る土嚢袋に、水爆実験で生まれた怪獣ゴジラがダブって見えたという。

 その印象を作品にしたのが「プロジェクト ゴジラ-眼がある風景-」。柳は日本や世界をいろいろと見てきたゴジラの目玉に日本や世界の社会事象を映し出した。隣室では、広島型原爆を再現した作品「リトルボーイ」がいまにも投下されようとしている。

 ここは、BankART Studio NYK(横浜市中区)で開催中の「柳幸典『ワンダリング・ポジション』」の会場だ。世界を舞台に活躍する柳の既存の作品に新作を加えた同展では、柳の思索を表現した過程を知ることができる。この2作品をはじめ柳作品からは現代文明を批判するメッセージ性を感じるのだが、柳は「見る人がどう感じるか、それは自由なんです」と突き放す。

 平成5(1993)年のベネチア・ビエンナーレに出品され、柳を一躍有名にした作品「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」もその一つだろう。透明なプラスチックボックスに世界各国の旗を色砂で作り、旗の上下左右をチューブでつなぎ、その中を蟻(あり)が行き来して旗が崩壊していく作品だ。ベルリンの壁崩壊など国境がなくなる現実に「蟻を国と国を行き来する移民」と捉え、「(蟻が破壊して無くなる国には)国境は幻想や虚構。それを作品にした」と話す。

 ◆変幻自在に作品展開

 そうした柳の意識は7(1995)年以降、瀬戸内海の離島「犬島」で行った、明治時代の銅の精錬所を美術館に再生させるプロジェクトに飛躍していく。展示会場には、その犬島のコンセプトモデルが新作「イカルスセル」として展示中だ。地下回廊を模した作品内に掲示された三島由紀夫の随筆「太陽と鉄」を読みながら進むと、精錬所の銅の燃焼状態を示す赤いスペースと、外光が入り込むスペースに出合う。まるで作品が、カトリックの教理で天国と地獄の間にあるとされる煉獄(れんごく)のように思えてくるから不思議だ。

 アーティストの吉田ゆう(30)は「犬島で見た光景がこの作品で理解できた。創造する行為とはこういうことだと柳さんの作品を通して伝わってくる」と話した。同展は柳が歩いてきた世界をさまようと同時に、変幻自在に作品を展開していく柳の近未来を感じさせる場にもなっている。 =敬称略(柏崎幸三)

                   ◇

 「柳幸典『ワンダリング・ポジション』」は、BankART Studio NYK(横浜市中区海岸通3の9)で12月25日まで。午前11時から午後7時。会期中無休。観覧料は一般1200円ほか。問い合わせは(電)045・663・2812。