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手描きこいのぼりに幕 創業109年・加須の「橋本弥喜智商店」

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手描きこいのぼりに幕 創業109年・加須の「橋本弥喜智商店」

 全国有数のこいのぼりの産地、加須市で唯一の手描きこいのぼりを製造してきた「橋本弥喜智(やきち)商店」が9月末、明治41(1908)年の創業以来、109年の歴史に幕を閉じた。3代目当主で、半世紀にわたり手描きこいのぼりを作り続けた橋本隆さん(75)は「もう後期高齢者。元気な今が潮時」と笑う。残務整理に忙しい日が続くが、落ち着いたら最後に自分のためだけの最高のこいのぼりを1本作るつもりだ。 (石井豊)

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 こいのぼりのまちとして知られる同市は、最盛期の昭和初期ごろには40軒が製造。9年、現在の天皇陛下の初節句の際、同商店を創業した祖父の弥喜智さんが北埼鯉幟製造組合を代表し、「武州ごい」と呼ばれる手描きのこいのぼりを製造して献上した。

 橋本さんは23歳でこの道に入り、2代目の父、初雄さんの急死で41年、わずか25歳で3代目を継承。当時は低価格のナイロン地のプリント製品が主流となり、手描きこいのぼりの製造をやめた時期もあるが、千葉県から来店した老人に「どうしても手描きがほしい」と懇願されたことを機に細々と再開した。

 高度成長期に合わせてナイロンのこいのぼりにあきたらない人が噂を聞いて訪れるようになり、再び手描きこいのぼりの製造が軌道に乗るようになった。

 同商店はともに県認定伝統工芸士の橋本さんと弟の勝さん(73)を中心に、妻の恵子さん(61)と若いスタッフも加えて5人で経営。橋本さんが「子供たちが健康で健やかに、何の道でもトップになってほしいと願い、龍に変身する前の勢いのあるこいを描いている」と話す手描きこいのぼりは、1・5メートルのベランダ用を中心に10メートルの大きさまであり、37種類も作るようになっていた。

 また、加須名物の全長100メートルのジャンボこいのぼりも加須青年会議所の依頼で昭和63年に完成した1世から現在の4世までデザインを描き、1世と4世は命を吹き込む最後の目入れに橋本さんも参加した。

 同商店は閉店に伴い、筆や顔料などの手描きこいのぼりを作るのに必要な道具類を県内の公共施設などに寄付し、特に加須市には仕事場を再現できるほどの道具類一式を贈った。

 橋本さんは「市内のこいのぼり製造は3軒に減るが、これだけまとまってあるところは他になく、こいのぼりのまちは続く。今はものすごく寂しいが、今後はこいのぼりの歴史や楽しさなどを伝えていきたい」と話していた。