産経ニュース

泡消火剤、インドネシア救え 北九州のシャボン玉石けん、環境技術の普及目指す

地方 地方

記事詳細

更新


泡消火剤、インドネシア救え 北九州のシャボン玉石けん、環境技術の普及目指す

インドネシア・カリマンタン島で行われた「シャボン玉石けん」の泡消火剤の実験 インドネシア・カリマンタン島で行われた「シャボン玉石けん」の泡消火剤の実験

 ■深刻な森林・泥炭火災

 北九州市のシャボン玉石けん(森田隼人社長)が、森林・泥炭(でいたん)火災が深刻なインドネシアで、泡消火剤の普及を目指している。同社の無添加せっけん製造技術をベースに、産学官で共同開発した商品で、環境への負荷も小さいという。公害を克服し「環境先進都市」を掲げる北九州市から、東南アジアの環境問題を解決する技術が生まれた。 

 今月20日。赤道直下のインドネシア・カリマンタン島に、シャボン玉石けんの社員がいた。国立パランカラヤ大学構内で、同社を中心に開発した泡消火剤の実験が行われた。

 同国の環境林業省の幹部や研究者ら、100人が見守る中、可燃性の泥「泥炭」の火を消し止めた。

 比較実験に使用した米国製の泡消火剤と異なり、泥中の火種も残さなかったという。しかも、環境への影響が小さいとあって、現地関係者はシャボン玉石けんの技術を高く評価した。

 ◆産学官で製品化

 同社が、消火剤開発に乗り出したきっかけは、平成12年、北九州市消防局からの依頼だった。

 長年、民家火災の消火作業では、水だけを使用することが多かった。ところが7年の阪神大震災では、上下水道が断水し、消火活動が難航した。

 少ない水で火を消し止める「泡消火剤」が注目を集めるようになった。

 泡消火剤は、水と混入して放水する。燃焼物を冷やし、泡が酸素を遮断することで、消火能力を高める。

 北九州市消防局は、11年ごろ、米国製の合成系泡消火剤を試験的に導入した。

 ところが、消防局の想定を上回って、大量の泡が発生した。内部の構造が入り組んだ日本の木造家屋では、泡で足元が見えにくくなる弊害があった。

 また、泡が消えないまま水田や河川に流れ込み、周辺住民から苦情も出た。

 市消防局警防課長だった山家(やまが)桂一氏(63)は、もっと使い勝手のよい泡消火剤を開発できないか考えた。12年1月、シャボン玉石けんの当時の森田光徳社長(故人)に相談を持ち掛け、開発が始まった。

 シャボン玉石けんは、合成界面活性剤などを使わない「無添加石けん」を製造している。この技術を応用することになった。

 北九州市立大学の上江洲(うえず)一也教授(化学工学)らの研究グループも開発に加わった。約7年をかけ、産学官で製品化に成功した。

 使用水量は17分の1に抑えられ、大手消防車メーカー、モリタが「ミラクルフォーム」の商品名で19年、販売することになった。

 水の使用量が少ないメリットは大きい。マンションなど集合住宅の消火作業では、下の階への影響を抑えられる。消防車のコンパクト化も実現できる。

 加えて、せっけん成分の脂肪酸イオンは、使用後は地中に含まれるカルシウムやマグネシウムと結合するだけなので、動植物への影響は小さい。

 北九州市消防局は早速、建物火災用にシャボン玉の消火剤を導入した。そればかりか全国の消防局・消防本部から注文が殺到した。

 この技術が今、海外から注目されている。

 ◆170万ヘクタールが焼失

 インドネシアでは、森林・泥炭火災が深刻な問題となっている。

 同国には、植物が十分分解されずに堆積してできる「泥炭」の地面が広がる。

 泥炭は可燃性だ。その上で、農業のために野焼きをする。表面上は消火しても、地下の泥そのものがくすぶる。これが火種となり、火災が長期化・広域化している。2015年には少なくとも170万ヘクタール、東京都の約8倍の面積の森林が焼失した。

 こうした火災によって、年間14億トンの二酸化炭素が空気中に放出される。その量は、日本の総排出量並みだという。また、マレーシアやシンガポールなど周辺諸国にも煙害となって影響を及ぼす。

 泥炭火災は、水だけでは消火が難しい。放水しても水が蒸発してしまい、泥中の火種まで届かないからだ。

 そこで泥中に水を浸透しやくする泡消火剤に注目が集まる。シャボン玉石けんの泡消火剤も、広く普及する可能性を秘めている。

 同社は、インドネシアに生産会社を設立し、オーストラリアなど周辺諸国に販売する計画も立てる。

 シャボン玉石けんの川原貴佳研究開発部長は「インドネシアで技術認証を受け、販路拡大につなげたい。北九州の技術で東南アジアの環境保護に貢献する」と語った。