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【キラリ甲信越】エンジニア僧侶の挑戦 デジタルと仏教、異色の共存

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【キラリ甲信越】
エンジニア僧侶の挑戦 デジタルと仏教、異色の共存

 塩尻市広丘野村にある浄土宗の善立寺(ぜんりゅうじ)で配布される御朱印が話題となっている。スマートフォンをかざすと寺のフェイスブックに接続できる「QRコード」が印刷されているのだ。開発したのは、副住職を務める元エンジニアの僧侶、小路(こうじ)竜嗣(りゅうじ)さん(30)。「新たな方法で仏教の面白さを伝えたい」。仏教界におけるアナログとデジタルの共存に取り組む。(三宅真太郎)

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 ◆御朱印にQRコード

 黒墨で書かれた「阿弥陀如来」の文字に朱色の陰影が重なる。一見、普通の御朱印と変わりはないが、スマホをかざせば数秒で寺のフェイスブック(FB)が画面に表示される。名付けて「御朱In」。紙の裏には無線データ通信のタグが貼ってある。

 「御朱印をきっかけに、お寺や仏教をもっと知ってほしい。ただ集めるだけのブームで終わらせたくない」

 ここ数年、社寺参詣の証として受ける御朱印集めが若い女性の間でブームとなっており、御朱印帳を手に社寺を巡る人が後を絶たない。一方で、社寺を訪れるのは一度きりという場合も多く、一つ一つの御朱印の思い出は薄くなりがちだ。

 「参拝者とのご縁を大切にしたい。いつでもスマホをかざしてつながれる」

 僧侶になって間もなく、御朱印にQRコードを印刷することを思いついた。寺の正式な御朱印とは別にQRコードを付けた紙を希望者に配布するようにした。

 ◆結婚を機に出家

 「エンジニア僧侶」を自負する。兵庫県伊丹市の一般家庭で生まれ、幼い頃から大のロボット好きだった。技術者を夢見て信州大工学部に進み、同大学院で機械システム工学を専攻、人工関節の研究に没頭した。卒業後、精密機器大手「リコー」に入社したが、1年もしないうちに人生の転機が訪れた。大学1年の時から交際していた女性との結婚が決まった。彼女は善立寺の一人娘だった。

 「僧侶になるしかない」。出家を決断し浄土宗の養成道場で修行を始めた。お経の読み方、木魚の打ち方などの実技、仏教や宗教法人法に関する座学を受けては試験に臨む。修行の時は朝5時半に起床し正座しながらの2時間の法要が日課だった。テレビも電話もなく「身内の死を知ることさえできない」と言われる極限の環境に置かれ、それまでの自分の日常とは切っても切り離せなかったデジタルへの見方が変わった。

 「デジタルはあくまでもツール。科学のテクノロジーを活用してこそアナログなことが生きる」

 ◆アナログを生かす

 平成25年12月、修行を終えて善立寺の副住職になるや、エンジニアの経験をもとにクラウドサービス「エバーノート」を用いて墓地の位置や所有者を管理し始めた。年に2回ほど檀家(だんか)に配る冊子も自ら写真を撮って原稿を書き、自作のパソコンで編集する。

 「デジタル化で事務的な作業を効率化すれば、檀家さんや参拝者と交流する時間が増える。もっと世間話ができるし、たくさん悩みも聞いてあげられる」。小路さんはそう言う。

 最近は、スマホを置くとそのスピーカーから自動的にお経が流れる「スマホ経ざぶとん」を開発した。スマホをかざすと動画が見られるお守りも制作中だ。だが、これらはあくまでもきっかけに過ぎないという。

 「仏教は普遍的な思想。お寺の持っているアナログの良さを生かすために、デジタルを使っていきたい」

 エンジニア僧侶の挑戦は続く。