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【熱血弁護士堀内恭彦の一筆両断】「声かけ」事件 裁判員制度の意義問い直せ

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【熱血弁護士堀内恭彦の一筆両断】
「声かけ」事件 裁判員制度の意義問い直せ

 先日、福岡地方裁判所小倉支部で殺人未遂罪に問われた暴力団幹部の裁判員裁判で、審理を終えて帰る途中の裁判員らが、元組員ら2人に「顔を覚えとるけんね」「よろしく」などと声をかけられる事件が発生した。裁判への影響を考慮して判決言い渡し期日は延期され、裁判員6人のうち4人が辞任を申し出た。声をかけられた裁判員らはさぞ恐ろしかったことだろう。

 その後、元組員ら2人は裁判員法違反(威迫)の罪で逮捕・起訴され、検察庁はこの暴力団幹部の公判を裁判員裁判の対象から「除外」するよう請求した。平成21年の裁判員制度導入以来、裁判員法違反での起訴は初めてであり、公判中の裁判員裁判からの「除外」も前例がない。

 福岡県では、「組織的な背景があり危険」という理由で暴力団関係の裁判員裁判が既に6件も「除外」されている。今回の裁判は幹部が個人的に起こした事件で組織性がなく、「そこまで危険性はないだろう」との甘い判断で「除外」されなかった。「除外」を多く認めてしまうと裁判員制度そのものの意義がなくなってしまうので、なるべく「除外」はしたくないという配慮もあったと思われる。

 しかし、このような「声かけ」事件が起こることは容易に想定し得たことであり、裁判員制度に内在する危険性が露呈したと言える。裁判員は裁判所の中ではそれなりに保護されているが、裁判所から一歩外に出れば、何の保護もなく、誰も守ってはくれない。

 裁判員制度は、「開かれた司法を!市民感覚の裁判を!」の大合唱のもとに導入されたものであるが、被告人の迅速な裁判を受ける権利や手続き保障をないがしろにし、国民に義務を課し負担を強いるなど、憲法違反の疑いが強い制度である。平成23年に、最高裁は「裁判員制度は合憲」との判決を下したが、そもそも最高裁自体が億単位の金をかけて裁判員制度を懸命に推進・宣伝しているのであるから、違憲判決など出せるはずもない。

 最高裁は「裁判員を経験した人の9割が『よい経験になった』と答えている。国民の高い意識に支えられて安定的に運営されている」などと呑気(のんき)なことを言っているが、そもそも、刑事裁判は「真実発見と適正手続」を目的とする制度であって、参加した一般市民によい経験をさせたり、満足させたりするためのものではない。

 本来、「裁判」は危険なものである。海外ではマフィアに有罪判決を下した裁判官が爆殺されるぐらいであるから、裁判関係者はまさに「命懸け」なのである。やはり、裁判、とくに刑事裁判についてはプロの裁判官に任せるべきである。プロの裁判官はそれなりに安全が確保され、身分や待遇も保障されている。また、裁判員裁判の対象となる事件は、殺人・放火・身代金誘拐・覚醒剤など凶悪なものが多くプロでも覚悟が必要であり、一般市民が興味本位や義務感で参加するものではない。どうしても「司法に市民感覚を取り入れよ!」というのであれば、殺人などの個人的な問題よりも、政治家の汚職や談合事件などを対象にした方がよっぽど意味がある。

 このように弊害の大きい裁判員制度であるが、依然として廃止の方向には向かっていない。そうであれば、裁判員制度を国民に押し付けて参加を義務づけている以上、国家には裁判員の生命・身体の安全を徹底的に守る義務がある。海外並みに、裁判員を車で送迎し、ホテルで隔離するなど物理的な保護対策を充実させなくてはならない。

 しかし、そうまでして、国民は裁判員制度を続けたいのであろうか?莫大(ばくだい)な税金をつぎ込んでまで制度を続ける意義は何なのか?真剣に議論されなければならない。裁判員制度の限界を認めて廃止を検討しなければ、不利益を被るのは、われわれ国民である。

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【プロフィル】堀内恭彦

 ほりうち・やすひこ 昭和40年、福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学法学部卒。弁護士法人堀内恭彦法律事務所代表。企業法務を中心に民事介入暴力対策、不当要求対策、企業防衛に詳しい。九州弁護士会連合会民事介入暴力対策委員会委員長などを歴任。日本の伝統と文化を守る「創の会」世話人。趣味はラグビー。