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【みちのく会社訪問】ヤグチ電子工業(宮城県石巻市)

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【みちのく会社訪問】
ヤグチ電子工業(宮城県石巻市)

 ■確かな技術力生かし社会貢献

 宮城県石巻市の田園風景の真ん中で、世界も注目するユニークな商品が次々と生まれている。震災を機に開発した小型放射線量計「ポケットガイガー」で注目された電子機器製造会社「ヤグチ電子工業」。長年培った高い技術を武器に、受託生産だけに頼らない開発型メーカーに変貌を遂げた。

 同社は昭和49年に相模原市で創業し、平成2年に河南工場(石巻市)を設立。大手電機メーカーから委託を受けて電子部品を製造してきたが、国内製造業の空洞化で受注が減り、平成21年の相模原の工場閉鎖に伴い石巻に本社機能を集約した。

 ◆小型線量計がヒット

 渡辺俊一社長(64)は「受託生産だけでなく、新しいことを始めないと」と考えていたが、その矢先に東日本大震災が発生。工場は一部が損壊し、停電の影響で10日間の休業を余儀なくされた。

 東京電力福島第1原発事故も起こり、多くの市民が不安な日々を過ごした。そこで同社は長年培ってきた電子部品技術を生かし、従来の測定器とは違い、「放射線検出半導体」で大気中の放射線量を検知する機器を開発。スマホの専用アプリで数値を確認できる「ポケットガイガー」を試作した。

 震災の5カ月後に200台をネット上で売り出すと、予約開始から30分で売り切れ。改良を重ね、現在までに約5万4千台を販売した。人気の秘訣(ひけつ)は測定値をフェイスブック上で共有し、利用者や研究者、専門家が議論ができるようにしたことだった。

 一方で利益はギリギリまで削った。「震災で儲けることになる」と抵抗感があったからだ。佐藤雅俊工場長(45)は「利益はなくても世の中の役に立ち、開発分野にとっても大きな一歩になった」と振り返る。

 ◆震災で生まれた新機軸

 震災は人命をはじめ、多くの大切なものを奪っていった。その一方、同社にとっては新しい着想にもつながった。

 27年6月に開発した子供の弱視矯正装置「オクルパッド」もその一つだ。オクルパッドは専用のタブレット端末とメガネで1組となる。裸眼では真っ白にしか見えない特殊な画面を偏光フィルターを貼ったメガネで見ると、映像が浮かび上がる。視力の弱い方の目だけにフィルターを貼って、簡単な専用ゲームを続けることで脳を刺激、視力が鍛えられる仕組みだ。

 きっかけは震災で壊れたテレビ。液晶画面から表面の偏光フィルムが剥がれ、真っ白に光っていたことにヒントを得て開発を進めた。やがて弱視治療の研究者の目に留まり、医療分野への応用にかじを切った。医療機器のため直接販売はできず、販売数は140台にとどまるものの、保護者や医療関係者の注目を集めている。

 同社はこのほかにもさまざまな製品を開発中。佐藤工場長は「中小企業のものづくりは変わってきている」と強調する。研究開発をオープンにし、幅広い知見を集め、復興促進に向けて産学連携も進める。それを可能にするのは、日常の思いつきを実現するフットワークの軽さと確かな「ものづくり」の技術力だ。(上田直輝)

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 【取材後記】取材時、記事で紹介した製品や開発中の製品について説明を受け、実際に触らせてもらった。驚いたのは、1つの製品には多くの人が関わり、出来上がっていることだった。渡辺俊一社長は「震災を機に生まれたつながりとものづくりの技術を生かし、社会に役立ちたい」と意気込む。同社は製品に「Made in 石巻」の文字を記している。そこには逆境を乗り越え、ものづくりを続ける強い意志が表れている。

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 【企業データ】昭和49年、相模原市で創業。平成21年に宮城県石巻市に本社機能を移転した。電子機器の基板などの受託生産のほか、東日本大震災後は開発にも力を入れ、社会を巻き込んだ「ものづくり」を目指す。従業員数25人。本社は、石巻市鹿又嘉右衛門301。(電)0225・75・2106