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【みちのく会社訪問】木村酒造(秋田県湯沢市)

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【みちのく会社訪問】
木村酒造(秋田県湯沢市)

 ■「福小町」で秋田を世界にPR

 「和醸良酒という言葉をご存じですか?」。日本酒「福小町」の蔵元として400年の伝統を受け継ぐ建物で、佐藤時習製造部長(50)が口を開いた。

 「和は良酒を醸す。良いお酒を造るために、チームワークを大事にしています」。雪国・湯沢で、冬場に1年分の酒を作る「寒造り」にこだわる。シーズン中は、6人の杜氏(とうじ)・蔵人と3人の製造担当社員が丹精込める。

 福小町はもともと「男山」という名前だった。明治14年、明治天皇の東北・北海道巡幸の際に宮内卿の徳大寺実則がここに泊まり、「男山というより、女性的な味ですね」と「福娘」と命名。昭和になって、小野小町生誕の地にちなんで福小町となった。佐藤部長は「香り華やかで、口当たりあっさりな『うま口』」と表現する。

 「手作りのものが『作品』、機械で生産するのが『製品』とすると、製品にできる限り作品の要素を残すよう努力しています」と意気込んでいる。

 ◆東北新社傘下で復活

 大坂夏の陣で豊臣家が滅び、慶長から改元した元和(げんな)元(1615)年の創業。豊臣秀頼の家臣で、夏の陣で討ち死にした木村重成の息子が湯沢に落ち延び、造り酒屋を始めたとされる。

 老舗は平成に入って、経営難から廃業の危機に陥った。そのとき、由利本荘市出身で映像制作大手の東北新社(東京都港区)の植村伴次郎社長(87)=現最高顧問=が救いの手を差し伸べ、グループ企業にした。

 米山忠行社長(49)は「秋田県を支える農業関連産業の一つである酒造りを守ろうという郷土愛で引き受けてくださったのだと思います」と感謝する。

 現在の福小町ブランドは「純米大吟醸」「大吟醸」「純米吟醸」「純米」「本醸造」「冷撰」の6種類だ。

 全国の蔵元が新酒の出来栄えを競う全国新酒鑑評会で平成18~22年度に5年連続、24~27年度に4年連続で金賞を受賞するなど、伝統を受け継ぎ、発展させている。

 ◆東京五輪招致に一役

 東北新社傘下になって以降、すし店「銀座久兵衛」など東京の高級店で福小町が出されるようになったほか、米国を中心に海外進出にも力を入れ、ニューヨークの「雅(まさ)」など有名すし店が置くようになった。

 そんな中、英ロンドンで開かれた世界最大級のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ2012」で、大吟醸福小町が日本酒部門の最高賞「チャンピオンサケ」に選ばれた。

 翌年にスイス・ローザンヌで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の2020年五輪招致プレゼンテーション会場では、福小町が委員に振る舞われた。東京招致に一役買ったわけだ。

 昨年のイタリア・ミラノ国際博覧会(万博)に合わせて開かれたイベントでも、米山社長が福小町を紹介する機会に恵まれた。

 世界に羽ばたく福小町のラベルには「秋田・木村」と記され、故郷がPRされている。(渡辺浩)

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 【取材後記】米山社長が「蔵の雰囲気を楽しんで、日本酒のことをもっと知ってほしい」と14年前に受け入れを始めた酒蔵見学は、今年4月に見学者が5万人を突破し、地元の観光客誘致に貢献している。「日本酒ファンに福小町を売り込む結果として、秋田や湯沢のPRになれば幸いです」。県外や国外への売り込みの根底には地元愛があると感じた。

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 【企業データ】秋田県湯沢市田町2の1の11(電)0183・73・3155。元和元(1615)年創業の日本酒の蔵元。平成8年に東北新社傘下になり、経済酒から高級酒に路線転換。東北新社子会社のナショナル物産の「木村酒造事業部」を経て、25年5月に「株式会社木村酒造」設立。従業員17人。資本金5千万円。売上高約2億5千万円(28年3月期)。酒蔵見学は事前予約が必要。