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首都大変貌 大田区、3分の2が民泊可能な地域に 「街にかつての活気を」

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首都大変貌 大田区、3分の2が民泊可能な地域に 「街にかつての活気を」

 ■町工場は半数以下に減少 繁華街の治安維持に懸念

 畳10畳ほどの空間で、工作機械がうなりをあげる。油のにおいが鼻先にこもる。町工場が集積する「大田区」を象徴する光景だ。創業47年の岩井製作所。岩井仁(まこと)社長(79)の額には、師走とはいえ汗が浮かんでいる。

 だが、その光景は一変するかもしれない…。

 大田区議会が昨年末、国家戦略特区の特例を受けて、自宅の空き部屋などに観光客を有料で宿泊させる「民泊」を認める条例の制定を承認。岩井製作所がある南蒲田地域など区全体の約3分の2を民泊可能な地域に指定したからだ。

 岩井社長は「南蒲田はJR蒲田駅から遠く、飲食店や娯楽施設が十分に整備されているとはいえない。そんな所へ外国人がわざわざ民泊に来るだろうか」といぶかる。

 だが、期待もよぎる。「区が外国人観光客を受け入れる環境整備を行えば、(かつて町工場で活気があった)地域の振興につながる」

 区の調査では、平成26年末の工場数は昭和58年の約9千から約3500まで激減しているのだ。

 同区に先行して全国で初めて民泊条例を制定した大阪府内で、中国や韓国など約10カ国の観光客に、所有するマンションの空き部屋2室を1泊平均1万円程度で貸している世田谷区の男性会社員(39)は、民泊には、旅館やホテルにはない魅力があると訴える。

 ◆問い合わせ殺到

 「民泊を提供する側と、利用する外国人観光客との距離は比較的近い。例えば、民泊した相手とはその後も連絡を取りあうし、こちらも相手の国へ行くと、自宅に泊めてもらえる。より深い国際交流が体験できる」

 実は、条例制定前から、有料で自宅に外国人観光客を宿泊させる動きはある。大田区の男性は(65)は「宿泊施設の『営業』の線引きが不明瞭で、法的にグレーゾーンとされてきた。条例化で一歩前進」と受け止める。

 東京五輪開催で都内の外国人観光客が増加傾向にあり、大田区内の宿泊施設の稼働率が9割を超える。

 大田区には民泊条例制定の計画を発表した昨秋以降、都内外の自治体から「いつ条例案を議会に出すのか」「今後、どういうスケジュールで条例を制定するのか」などの問い合わせが殺到。条例に賛否両論唱える区民からの声を合わせると、多いときは30分に1回の割合で民泊に関する問い合わせがあるという。

 ◆不安に感じる人も

 不安や懸念の声もあがる。対象地域となっている蒲田駅周辺の宿泊施設でつくる蒲田ホテル旅館組合の平井敬太組合長(34)は「パリのテロ事件なども発生しており、安全面で不安に思う人もいるだろう」と指摘する。

 大田区は(1)7日以上滞在(2)必要に応じ行政が立ち入り調査する(3)近隣住民への事前の周知などを民泊の条件にあげるが、平井組合長は「適切な営業をしているかどうか、区には定期的にチェックするよう求める」と話す。

 都内では、杉並区が民泊条例制定を目指す方針を示すなか、同区の主婦(41)は「今まで通り、子供と安心して区内の繁華街を歩ける治安が維持できるか不安」という。

 こんな声に、大阪で民泊事業を実施する世田谷区の男性は、「民泊する外国人観光客に靴の脱ぎ方や、ゴミの出し方などの文化の違いを説明し、近隣住民には文書で周知するなど、民泊を行う側のサポートがトラブル回避の鍵」と語っている。(植木裕香子)