産経ニュース

【静岡 人語り】絵本作家・宮西達也さん(59)(4)

地方 地方

記事詳細

更新

【静岡 人語り】
絵本作家・宮西達也さん(59)(4)

 ■絵本は読み聞かせをして完成 この頃は明日のぼくが楽しみ

 最初にテーマを決めてからストーリーを考えるというやり方はずっと同じです。テーマがしっかりすれば、ストーリーがぶれることはない。その中に優しさや思いやりがないといけないと思っています。時代が変わる中で、お金や物を持っている人たちをすごいと思う人が増えた。でも、お金をたくさんもらうことがそんなにすごいことかなと。自分に目をかけてくれた人たちの優しさや思いやりは、一生忘れられないですよね。

 作家としてのスランプはなかったんですよ。どんどん湧いて出てくるように描ける。ただ、本が売れてくるとシリーズものが増えますよね。新しいものを描きたいなと思う一方で、マンネリズムも必要になります。その辺がつらかったですね。ティラノサウルスシリーズは愛をテーマに描いていますが、途中で「愛にもいろいろな種類があるな」と思いついて、シリーズを描くことができた。どんなに売れているシリーズであっても、そういうテーマが見つからなければ「申し訳ないけどやめます」と自分から言います。

                  ◇

 「一番好きな自分の作品は」とよく質問されるんですが、何もないところから作ったわが子のような絵本なので、全部がかわいいんですね。子供に順番はつけられないですよ。ただ、難産なのか安産なのかという違いはありますね。一番の難産だったのは、「ぶたくんと100ぴきのおおかみ」。1匹描いてもあと99匹描かないといけないわけですから、後で10匹くらいにしておけばよかったなと(笑)。プロとして、絵のどこを切り取っても「さすが宮西さんの絵だね」と言われるものでないといけませんから。絵本は使い捨てではなくて、読んだ子供がお父さん、お母さんになったらまたその子供が読む。だから、きれいに取っておけるものにしたいんです。

 絵本にも「ここで笑わせるぞ」というポイントがあるんですが、やっぱりひとりよがりになりがちなので、絵本の読み聞かせはぼくにとっていい練習場でもあるんですね。実際に読み聞かせをすると、自分が想定していなかったところで笑い声が起きる。絵本は読み聞かせをして初めて完成するものだと思いますね。読む人の声やリズムがあってこそなんです。

 ぼくはラフの段階からせりふを大きく削ります。「おまえ うまそうだな」でも、ラスト2ページのせりふを削除しました。ここは、この絵本で一番いいところです。読者にとって一番いい言葉が必要でした。だから、僕の言葉じゃなくて、読者に言葉を選ばせようと。文章がないことによって、読者が自分で最高の言葉を入れてくれるんです。「おまえ うまそうだな」という作品の言葉をとることは、ほんとうにこわかったけれどやってよかったです。毎回読んでいて、自分で泣きそうになりますから(笑)。

 生涯絵本を作り続けていきたいですが、読み聞かせのおじちゃんもやりたいです。今、ぼくの作品が映画化や舞台化されたりしています。脚本を書かせてもらい、声優までさせてもらいました。また教科書にも採用されています。いたずら坊主だったぼくの夢は絵を描く仕事でした。それが、沢山の人たちに助けられていろんなことをさせてもらえるようになりました。これからも、明日のぼくが楽しみな今日この頃です。

                  ◇

 長時間の取材にも、柔和な笑顔と冗談を絶やさない宮西さん。展覧会場のお客さんに気軽に声をかけてまわるその姿は、いたずら坊主時代の奔放さそのままです。「絵を描きたい」という自分の気持ちと正面から向き合い続けてきた、宮西さんの強さと優しさを感じました。(構成 村嶋和樹)

                  ◇

 次回からは、浜松ホトニクス社長の晝馬明さんです。(毎週金曜日に掲載)

【プロフィル】宮西達也

 みやにし・たつや 昭和31年、熱海市生まれ。日大三島高校を卒業後、イラストレーターを目指して日本大学芸術学部美術学科に進学。卒業後はデザイン会社に就職したが、「絵を描きたい」と一念発起し26歳でフリーに。58年に「あるひ おねえちゃんは」で絵本作家としてデビューし、「おっぱい」「おとうさんはウルトラマン」「おまえ うまそうだな」など代表作多数。