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風評被害乗り越え活気再び 「はらこ飯は亘理の財産」

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風評被害乗り越え活気再び 「はらこ飯は亘理の財産」

 夏は涼しい海風が吹き、冬は県内でも比較的暖かい。はらこ飯やほっき飯といった名物があって、カレイやシャコなどの海の幸、イチゴやアセロラなど山の幸に恵まれる。

 「県内で一番、恵まれた場所だと思う」

 宮城県亘理町の阿武隈川河口に広がる汽水湖「鳥の海」。その北側にある荒浜漁港に近接する「鳥の海ふれあい市場」協同組合の菊地一男理事長(68)は荒浜についてそう評する。

 同地区が東日本大震災の津波で被災して4年半、「なんとかしなければ」との一心で市場の再建や荒浜の復興に尽力してきた。大変な道のりだったが、迷いはなかった。

 「荒浜の良さをわかってるからね」

                  ◇

 市場は平成20年2月、漁港近くの町営温泉「わたり温泉鳥の海」のオープンに合わせて開業した。菊地理事長ら7人を中心に、荒浜を盛り上げようと集まった地元の事業者約60人で協同組合を立ち上げ、温泉施設の1階で鮮魚や特産品の販売を始めた。

 朝に水揚げされた魚がパック詰めの中で勢いよく跳ねる姿が話題を呼び、たちまち人気スポットに。翌年には組合の理事長に就任し、震災直前には組合に約110人が参加。市場には年間17万人以上が訪れるようになった。

 23年3月11日、仙台市泉区。経営する建設会社の仕事中に大きな揺れに襲われた。5時間以上かけて家族が避難していた亘理町の中心部へ戻り、親族の家で一夜を明かした。翌日、市場の様子を見に漁港を訪れると、そこにはがれきの山が広がり、見慣れた風景は変わり果てていた。

 「言葉が出なかった」

 自宅、会社の事務所、妻のなみ子さん(65)が市場に出す総菜を作っていた店もすべて津波で流された。客や従業員は無事だったが、組合の仲間6人が亡くなった。

 まもなくして組合の会合が開かれた。「市場を再生し、荒浜に活気を取り戻す」。全員の目標が一つになった。12月23日、ついに再オープンにこぎつけた。

 「客が来るのか不安もあったが、生まれ育った荒浜をなんとかしなければという気持ちの方が強かった」

 当初は土日祝日のみの営業だったが、市場にはあちこちから客が訪れ、やがて平日営業も再開した。

                  ◇

 順風満帆にみえたが、24年4月、東京電力福島第1原発事故の風評被害に見舞われた。魚介類に含まれる放射性物質の基準値が変更され、客足は遠のいた。

 「このままでは市場が終わってしまう」

 弁当を作って町役場や亘理警察署に届けたほか、7月からは平日営業を取りやめてしのいだ。

 転機となったのは同年秋。荒浜漁港発祥の名物はらこ飯の販売再開だった。

 「はらこ飯は亘理町の先祖が残した財産」

 このサケとイクラの“親子丼”を目当てに客が増え、市場に少しずつ活気が戻ってきた。「カレイフェスティバル」など、荒浜の魅力を伝えるイベントも数多く開催し、市場はにぎわいを取り戻した。

 さらに昨年10月、荒浜地区に町水産センター「きずなぽーとわたり」が完成し、温泉も営業再開。市場は仮設を離れてきずなぽーと内に引っ越した。

 温泉と市場の間には今年3月、「亘理町荒浜にぎわい回廊商店街」もオープン。入居する8店舗には、菊地さんとなみ子さんが経営するカフェもある。商店街前のアーケードでは、旬の食材が楽しめるイベントもたびたび開催。市場と商店街、温泉の相乗効果で客足の増加を目指している。

 「元気なうちに以前のように客を集め、前よりも盛り上げないと」(上田直輝)