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【大動脈が危ない 関門新ルート実現を】(上)巨大災害への備え必要

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【大動脈が危ない 関門新ルート実現を】
(上)巨大災害への備え必要

シルバーウイークで渋滞する関門トンネル下関料金所=21日午前、山口県下関市(画像を一部加工しています)

 ■現ルート遮断で経済損失年14兆円

 下関北九州道路(第2関門ルート)の構想復活から2年が経過した。関門海峡をはさむ自治体は今年度予算に調査費を計上した。だが、地元経済界の希望とは裏腹に、実現に向けた動きは遅々として進まない。本州と九州を結ぶ関門国道トンネル、関門鉄道トンネル、関門橋、新幹線の4本の大動脈は刻々と限界に近づいている。問題点を改めて検証してみたい。

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 盛夏も過ぎ去ろうとしていた8月27日。国土交通省に、山口県の村岡嗣政知事らの姿があった。下関北九州道路整備促進期成同盟会の会長として、関門新ルート建設の陳情だった。

 村岡氏らは、北九州市で7月24日に開かれた整備促進大会で採択された「道路の早期実現」「実現に向けた調査検討」「予算確保」の3項目を太田昭宏国交相に手渡した。

 「東アジアのゲートウエイとして役割を期待され(中略)地域経済を支える基盤となる道路網の充実・強化によるストック降下を発揮させることが急務(中略)本州と九州の連絡強化が喫緊の課題…」

 期成同盟会のほか、下関北九州道路建設促進協議会、中国経済連合会・九州経済連合会関門連携委員会も大挙して関係省庁、政府与党に訴えかけた。

 だが、概算要求が終了した平成28年度予算案で、調査費など費用が付くかは不透明な状況だ。

 彼らの前に立ちふさがったのは、またしても「道路」という“言葉の亡霊”だった。

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 「私は道路特定財源制度を廃止して、(平成)21年度から一般財源化すること、そして10年間の道路計画を見直して5年に短縮することをお約束いたしました」

 20年4月30日、福田康夫首相は、首相官邸での記者会見で、事実上の「道路建設との決別」を宣言した。

 国債、地方債の残高が合わせて800兆円を抱え、その後の少子・高齢化社会が視野に入ってきた当時、やむを得ない判断だった。

 下関北九州道路は全国6海峡をトンネルや橋で結ぶ国の海峡横断プロジェクトの1つとして、20年に凍結された。その後も、「道路建設との決別」が、関門新ルートにとって大きな重しとなっている。

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 果たして下関北九州道路は本当に無駄なのだろうか-。

 平成23年3月に起きた東日本大震災は、インフラをずたずたに引き裂いた。経済・生産活動への影響は被災地だけでなく、全国に拡散した。東北地方で作っている部品が届かないため、九州にある自動車工場の生産も一時ストップした。インフラの複線化など「リダンダンシー(二重性)」が再認識された。

 関門橋、関門トンネル、関門鉄道トンネルの現ルートが、何らかの原因で遮断された場合、九州は文字通り孤島となる。この経済損失を、九州経済連合会が22年に行った「関門トンネル・関門橋の交通遮断に伴う経済損失影響に関する報告書」が想定している。

 報告書によると、関門橋と関門トンネルが遮断された場合、1年間に約14兆円の経済損失が発生するとした。現ルートの遮断は九州のみならず、国内全体に影響が広がる可能性が高い。

 九州内で行われた企業ヒアリング(25年)では、想定される具体的な被害が報告されている。

 「エアバッグは爆発物扱いであるため、現行法上は内航船や航空便では運搬が不可能である。在庫を圧縮するため、毎日トレーラーによる陸送で4便(現状)~8便(ピーク時)の物量であるため、関門海峡の陸路が遮断されると、九州内での完成車生産がストップしてしまう」(完成車メーカー)

 「時期によっては九州内では白菜が取れない。白菜やキャベツのような葉茎菜類、玉ねぎのような根菜類は本州から移送している。白菜は長野県からの入荷が最も多い」(食品卸し)

 山口、福岡両県の試算によれば、下関北九州道路は建設費を除いても2070億円の経済効果があるとされる。それ以上に、将来の南海地震など巨大災害に備え、「国土強靱(きょうじん)化」の一環として整備される意味合いは大きい。

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【用語解説】海峡横断プロジェクト

 国の大規模な道路やトンネル建設を伴う横断道路構想。内訳は(1)東京湾口(神奈川県横須賀市-千葉県富津市)(2)伊勢湾口(愛知・渥美半島-三重・志摩半島)(3)紀淡海峡(4)関門海峡(5)豊予海峡(6)島原天草長島連絡の各道路。平成20年の政府決定で凍結されたが、第2次安倍晋三政権発足後、復活の機運が高まっているとされる。