産経ニュース

【検証 東北水害、復興の途上で】(中)福島・除染廃棄物の袋流出

地方 地方

記事詳細

更新

【検証 東北水害、復興の途上で】
(中)福島・除染廃棄物の袋流出

 ■想定外、対応追いつかず

 「やっとここまできたのに、まただ…」

 福島県南相馬市の主婦、菅野洋子(ひろこ)さん(73)はそういって表情を曇らせた。原町区深野(ふこうの)にある自宅は、すぐそばを飯舘村の方から注ぐ新田(にいだ)川が流れる。川をまたぐ橋の橋脚には、濁流に押し流されたとみられる草木が絡みつき、当時の水位を示す茶色い泥の跡がくっきりと残っていた。

 福島県内では10日、会津地方が「50年に1度」とされる記録的豪雨に見舞われた。国道が寸断され、集落は一時孤立。河川の堤防決壊で田畑には泥水が流れ込み、収穫間近の農作物にも大きな被害が出た。

 この大雨は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から4年半を迎えた被災地にも大きな爪痕を残した。わずかながらでも進み始めた復興に水を差すような事態だった。

 ◆途方もない水

 「田んぼにある袋が流れ出そうとしている」。11日午前6時ごろ、飯舘村役場から一報が入った。前日からの大雨で河川が氾濫(はんらん)。全村避難が続く飯舘村では、原発事故で飛散した放射性物質の除染で出た廃棄物を入れた「フレコンバッグ」と呼ばれる黒い袋が濁流に流された。

 木や草、土などが詰まった袋は1つ約200~300キロだが、中には1トンを超えるものもあった。人の手で持ち上げることはできないため、ダンプカーへの積み込みなどには重機を使う。しかし、今回の大雨はそれほどの“大物”をいとも簡単に押し流した。

 「大雨に備えて低地のフレコンバッグを高台に移したり、重機や電柱にくくりつけたりしていた。想定外という表現をしてはいけないが、途方もない(雨の)水の量だった」。除染廃棄物の管理を担当する環境省福島環境再生本部の小沢晴司副本部長は、こう釈明する。

 同省は18日時点で319個を回収したが、正確な流出個数は把握できておらず、今後さらに増える可能性がある。川の中州などで発見され、回収が難しいものもあるといい、180個は飯舘や南相馬で中身が流れ出た状態で見つかった。

 ◆拭えない不安

 環境省は今回流出した除染廃棄物の放射線量については調査中とし、「流出した袋に入っていたものは最近刈り取られた草木などで放射線量は低く、環境への影響はないと考えられる」としている。しかし、住民の不安は拭えない。飯舘村除染推進課の担当者は「これほどの災害なので仕方ない面もある」としながら、「一日も早く村に帰りたいという住民の思いに応えてもらうよう、早期の回収と今後はこのようなことがないよう対策をしてもらいたい」と話す。

 フレコンバッグが流れた新田川は飯舘から南相馬を経て太平洋へとつながっている。

 「被災地は除染が進んで少しずつ元の姿を取り戻してきた。なのに、これではまた原発事故直後に逆戻りだ。(除染廃棄物が)海に流れ出れば『福島の魚はだめだ』となるのではないか」

 菅野さんは不安を隠せない。原発事故前まで同居していた高校1年と中学1年の孫は今年4月、避難先の埼玉県から進学に合わせて南相馬に戻ってきたばかり。しかし、水道水には不安があるため飲料用にはミネラルウオーターを買い置きしている。

 「また(避難しなければならなくなり)家族がバラバラにならなければいいが…」。4年半の苦しみが脳裏をよぎった。(野田佑介)