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【ちば人物記】アート書道家・矢野華風さん(40)

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【ちば人物記】
アート書道家・矢野華風さん(40)

 ■復興のシンボルとなる文字を

 青い入り江。海を見渡す岩手県大船渡市の高台に白亜のホテルが建つ。白壁に巨大な文字が躍動する。「大船渡温泉」。堂々と、太く、のびやかに。船橋市在住のアート書道家、矢野華風さん(40)の作品だ。

 大船渡市は東日本大震災で大きな被害を受けた。復興事業が進む。昨年4月、制作を依頼された。当時、矢野さんは父親の介護や家業のお好み焼き店「やのや」経営などで多忙だった。

 「毎日がいっぱい、いっぱいでした。創作に行き詰まっていた。引き受けていいのか、悩んだ。でも、せっかくいただいたチャンスです。自分が試されている。応えたい。やってみよう」

 復興のシンボルとなる文字を。集中して創作に取り組んだ。波と海をイメージして文字のデザインを考えた。何度も何度も書き直し、ようやく完成した。

 「ホテルは観光客を呼び込む復興の拠点です。地元の人たちが働く場でもある。思いを受け止め、創作しました。わたしの代表作の一つです。心に響いていただけるとうれしい」

 4歳で書道を始めた。小学生の兄に連れられて地元の書道教室に通った。黙々と書くのが好きだった。

 多感な少女時代、書道一直線だったわけではない。小中学校ではバレーボールに打ち込み、高校はソフトボール部と書道部を兼部した。

 会社に就職後は、夜間に東京都内で書道を学び、師範の資格を取った。その後、アート書道に取り組み、新境地を切り開いた。

 「アート書道は自由に表現できる。すごく楽しい。はまりました」

 自宅2階で制作する。手を洗って身を清める。般若心経(はんにゃしんぎょう)を唱え、精神集中。呼吸を整え、筆を持つ。

 多彩な分野で活躍している。船橋市の名所などを紹介する海外向けリーフレット。表紙の漢字「船橋」は彼女の作品だ。

 「2つの文字に船橋のいいところを凝縮しました。全体的には三番瀬の空を飛ぶカモメをイメージ。名産の梨や枝豆も字画の中に込められています」と笑顔で語る。

 西船橋枝豆研究会の会員が着用するポロシャツ。背中には独特の文字で「葉付き枝豆」。

 「やはり、船橋愛、強いですよね。ずっと住んでいますから」

 今年4月、県庁ロビーで書道パフォーマンスを披露した。県議選の投票率向上を目指すキャンペーンの一環。長さ1・6メートルの大筆を両手で持つ。黒い墨をたっぷりつけ、4メートル四方の巨大な紙の上に立った。一発勝負だ。一気に「選」の文字を書き上げた。

 「筆は重い。でも集中しているから、無の境地です。重さは感じません」

 ものすごいエネルギーを使う。汗が噴き出す。

 「書道展に来られる方は限られている。一方、書道パフォーマンスは大勢の人が見てくれる。書の魅力を広く伝えるため、できる限り続けたい」

 書の道を歩み、30数年の歳月が流れた。

 「つらいとき、苦しいとき、筆を手にすると、頑張れる。書は自分の支えです。作品は後世に残る。一つ一つ、死ぬ気で書いている。気合は人一倍入っています」と明るく笑った。(塩塚保)

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【プロフィル】やの・かふう

 船橋市在住。星美学園短期大学卒業。産経国際書展特選。小学生にもアート書道を指導。森沢明夫の小説を愛読。印象に残る映画は「永遠の0(ゼロ)」。大切な言葉は「愛」と「信頼」。