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【恵みを強みに 九州の食産業】新たな担い手、農業生産法人(下)協同ファーム  

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【恵みを強みに 九州の食産業】
新たな担い手、農業生産法人(下)協同ファーム  

あらゆる手法で競争力向上に取り組む協同ファームの日高義暢社長(同社提供)

 ■口蹄疫乗り越え、経営基盤強化

 ■養豚業も製造業を見習え! 

 日向灘を望む宮崎県中部の川南町に、6千頭の豚を飼育する養豚場がある。農業生産法人「協同ファーム」は、県内屈指の規模を有する。

 全体の8割は、地元農業協同組合(JA)を通じて市場出荷するが、2割は商標登録している自社ブランド「まるみ豚(とん)」として精肉加工し、首都圏の飲食店などに直接販売する。さらに、焼肉用のスライス肉やハンバーグ用ミンチ、ソーセージなどをギフト品として、インターネットによる通信販売も手がける。

 まるみ豚は、臭みが少なく、脂身まで味が深い豚肉として人気が高い。宮崎県内で肉質を評価する平成24年度の大会でグランドチャンピオンを獲得した。直接販売は、市場価格の2倍程度で取引されるという。

 だが、ブランド確立までの道のりは険しかった。

 豚肉は牛肉と違い、輸入豚肉とも肉質の差があまりないといわれる。国内養豚業の保護を目的に、安価な輸入豚肉には、高い関税がかけられている。

 とはいえ、長い間、価格低迷が続き、思うように利益は上がらなかった。

 コストの問題もある。豚のエサは、トウモロコシを主原料とする配合飼料だ。ほとんどを輸入に頼っている。バイオ燃料としても注目されるトウモロコシは、市場取引が活発で、価格も上下しやすい。為替レートの影響も受ける。コスト構造が不安定で、養豚業者の努力が及ばない。

 さらに、豚特有の病気「PRRS」(豚繁殖・呼吸障害症候群)にも悩まされてきた。

 せめて販売価格だけでもコントロールしたいと、販路拡大を目指し、自社ブランド化を進めた。

 平成18年ごろ、飲食店向けに営業活動を始めた。品質に差が出にくい豚肉でも、育成方法によって味に違いは出る。約3年間かけ、肉質が評価されるようになってきた。協同ファームは平成21年7月、商標登録を申請した。

 ところが、その9カ月後の22年4月、口蹄疫(こうていえき)が宮崎県を襲った。県内の牛と豚、29万8千頭の殺処分を余儀なくされた。

 協同ファームの豚もウイルスに感染した。8千頭近くが殺処分され、豚舎から豚が消えた。周囲の同業者を見回せば、高齢化や後継者不在もあり、口蹄疫を機に次々と廃業した。

 協同ファームの日高義暢社長(36)は、こう振り返る。

 「本当に悔しかった。ただ、ありがたいことに国の補助金が出る。ゼロからやり直せるじゃないかと考えた。徹底した防疫システムを導入して、強い養豚企業に生まれ変わってやろうと思った」

 どん底からの再出発に意欲を燃やした。

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 協同ファームは、日高氏の父、吉幸氏(72)=現会長=が、昭和44年に所有していた森林を切り拓いて始めた養豚業を前身とする。平成6年に法人化し、10年に豚舎をリニューアルした。

 このときから、与える水やエサにこだわるようになった。豚が健康になれば病気が減って死ぬ率も下がり、結果として肉質も向上すると考えたからだ。

 井戸水をくみ上げ、貯水槽で、ある種のバクテリアや花崗(かこう)岩などを入れてミネラルを補充する。

 エサの配合飼料も、自家配合にこだわるようになった。乳酸菌や酵母菌、納豆菌などを、エサに混ぜる。豚の腸の状態が改善され、免疫力も高まる。

 さらに、出荷が近い豚には、動物性タンパク質を一切与えない。これが臭みをなくしているという。

 こうした取り組みは結果としてコストカットにもつながる。

 近隣7業者と共同でトウモロコシを仕入れ、購入価格を安くしている。良質な水とエサで豚の腸内状態が良好になると、糞尿の臭いも抑えられ堆肥づくりも手間が省ける。

 小さなことでも、積み重ねれば、農場の規模が大きいだけに利益率は上がる。

 それでも日高氏は、現状に満足していない。

 3年後をめどに別の土地に繁殖専用豚舎を建設し、肥育と繁殖を完全に分離する計画を立てる。現状6千頭の飼養頭数を大幅に増やし、売上高を現在の年間4億円から、2倍となる8億円を目指す。

 従業員12人を増やさずに実現できるといい、利益率を向上させながら、直接販売で価格を抑えて競争力をつけるのがねらいだ。

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 「日本の製造業は、欧米に追いつけ追い越せと、不利な条件下でも、知恵と努力で世界トップレベルになったじゃないか。われわれも見習おう!」

 最近、有力な養豚業者の間で、「製造業に見習え」が合言葉のようになっているという。日本の自動車や電機メーカーは、徹底したコストカットと高品質で世界を席巻した。これに習おうという考えだ。

 国産と輸入品で品質差が小さい豚肉は、政府が進める環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉で関税撤廃になれば、甚大な影響が出ると予想される。

 ただ、日本の豚肉市場は安い時期でも1キロ当たりの価格が400円前後。ここ1~2年はPED(豚流行性下痢)が広がったことなどから価格が上昇している。200円前後の欧米に比べれば高値だという。

 養豚業界関係者は「日本は価格自体、まだ恵まれている方だ。日本の農業全体に言えるが、良いものを少しでも安く消費者に届けるという意識を持つ必要がある」と指摘する。

 協同ファームも所属するJA尾鈴管内(都農、川南両町)では、まるみ豚のようなブランドが他に3つあり、さらに増やせるよう、養豚業者への支援を続けている。

 JA尾鈴の畜産担当者は「TPPは反対だが、変革の波はどの業界もいずれ来る。それが今、農業だというのなら、万一の事態に備えなければならない」と語った。