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【突破力 地方創世を担う企業】エイティー今藤(本社・鹿児島県薩摩川内市)

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【突破力 地方創世を担う企業】
エイティー今藤(本社・鹿児島県薩摩川内市)

頭部や首の形状を調べ、最適な枕を作る「エイティー今藤」の店舗=鹿児島県薩摩川内市

 ■オーダー枕草分け、世界へ雄飛

 夜型生活の普及など社会環境の変化で、不眠や睡眠リズムの乱れなど「睡眠障害」が大きな問題となっている。厚生労働省によると、日本人成人の5人に1人が、不眠に悩む。この「不眠時代」に、一人一人の体形を調べて作るオーダーメイド枕の草分けとして、安眠実現に努めている。

 購入希望者がセンサー付きの測定ベッドに横たわると、ベッド脇のパソコン画面に、後頭部の形状が表示された。エイティー今藤が運営する店舗の風景だ。

 このデータを基に、「ネムリエ」と呼ばれる社内の寝具アドバイザーが枕作りを始める。

 枕には2層に重ねた計14のポケットがある。後頭部と接するポケットには柔らかい粒綿(つぶわた)を、より内側のポケットには耐久性のあるビーズを、といった具合に、ソバ殻やパイプ素材など硬軟4種類の実を、量を調整しながらポケットに入れ、その人専用の枕を作り上げていく。

 「頸椎、そして首筋のラインが布団に近くなれば、よりリラックスできる。ですが、既製の枕では1割程度の人しか合わないんです」

 社長の今藤尚一氏(61)はこう語った。

 後頭部から首筋、背中にかけての体形は個人差がある。このラインに適した枕が重要な“睡眠薬”だという。

 ただ、眠りの快適さには個人差があり、数値化は難しい。経験則から、よりよい枕作りの基準値やマニュアルを策定した。

 現在の方式を確立した平成14年以降、20万個の枕を売ったが、無料返品数は50個に満たないという。

 身体のケアに余念がない一流アスリートにも、愛好者が増えている。

 プロ野球ソフトバンクホークスを始め、広島東洋カープや阪神タイガースの選手も、遠征の際に福岡の店舗を訪れる。マラソンの五輪代表選手や大相撲の力士が使用するケースもあるという。

 かつて寝具業界では、既製品を売るのが当たり前だった。エイティー今藤は、この常識に挑戦してきた。

 明治38年、個人商店「今藤商店」として創業した。

 昭和57年、こぢんまりとした商店の3代目社長に尚一氏が、副社長に弟の仁弘氏(57)が就いた。2人は客の要望を聞きながら、枕の中身を変える販売手法を始めた。

 評判は口コミで広がった。鹿児島県内の6カ所の店舗には、九州中から客が来るようになった。

 兄弟は、客の反応など経験則に基づき、よりよい枕の基準やマニュアルを作った。こうした努力が、平成17年度の「マイ枕」の特許取得につながる。

 20年には鹿児島県外への初進出として「天神新天町店」(福岡市中央区)を開業した。オープン初日は600人が訪れた。

 今では従業員180人、店舗は北海道から沖縄まで計36店舗に上る。

 よりよい睡眠のために、売りっぱなしでは終わらない。長年使う間に、利用者の体格も変化すれば、布団やベッドが変わって枕が合わなくなることもある。枕内部の素材も弾力を失う。

 そこで、実の入れ替えや除菌処理などのアフターケアを無料で実施している。

 17年には「身体の枕」という触れ込みで敷布団「からだ枕」も開発した。ウレタン素材の無数の突起が、横たわった身体にかかる圧力を分散させ、人気商品となっている。

 マイ枕は1個3万円以上と決して安くはない。それでも、快適な眠りを求める心は万国共通だ。

 福岡や沖縄の店舗ではアジアからの観光客がマイ枕を買い求める。アフターケアの必要性から、海外への支店進出も検討する。

 社長の尚一氏は「マイ枕やからだ枕も、現状に満足することなく、お客の要望を聞き入れて、進化し続けたい」という。

 この7月、4代目候補となる尚一氏の長男、伸之介氏も他社での“修行”を終えて入社した。

 「眠りの質」の低下は、集中力減退や頭痛や肩こりなど、さまざまな症状を引き起こす。「不眠」による経済損失は3兆円を超えるという試算まである。

 創業から110年。鹿児島の一地方都市から、日本の快眠を支えてきた企業は、次の100年を見据えた進化を目指す。(九州総局 奥原慎平)

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【会社概要】エイティー今藤

 明治38年、寝具業「今藤商店」として創業した。昭和60年1月、株式会社化し、社名を現在の「エイティー今藤」に改める。一人一人の体形に応じたオーダー枕がヒットし、現在は沖縄から北海道まで36店舗を運営する。資本金4200万円。従業員180人。本社は鹿児島県薩摩川内市入来町。社長の今藤尚一氏は薩摩川内市商工会の会長も務める。