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【熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断】「世界遺産」狂騒曲 損なわれた国益

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【熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断】
「世界遺産」狂騒曲 損なわれた国益

 危惧していたことが現実になってしまいました。「明治日本の産業革命遺産」(九州・山口を中心とした23施設)の世界文化遺産への登録が決まりましたが、日本政府は、韓国が主張する「強制労働」の表現を事実上、受け入れてしまいました。韓国は、長崎市の「軍艦島」(端島炭坑)を「アジアのアウシュビッツだ!」と他国にアピールして回るなど、猛烈な反対活動を展開。結局、日本側は韓国のゴリ押しに屈して、「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者などがいた」「(日本政府が)第2次世界大戦中に徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」とし、「情報センター」を設置する意向まで示してしまいました。

 岸田外務大臣は、「forced to work(働かされた)は、『強制労働』を意味するものでなく、徴用工問題は既に解決済みという日本政府の立場に変わりはない」などと呑気(のんき)な説明をしていますが、そんな言い訳は世界には通用しません。

 韓国政府は「日本政府は韓国人が自らの意思に反して過酷な条件下で強制労役した事実があったと発表した」と語り、韓国メディアも「日本が強制労働を国際舞台で初めて認めた!」と勝ち誇り、全世界にアピールし始めています。

 これを機に、韓国側が数十万人、数百万人とも主張している「徴用工」による損害賠償請求訴訟が加速することでしょう。われわれの先人を汚し、子孫に禍根を残す大失策です。

 日本政府は、歴史的事実を踏まえた主張をし、毅然(きぜん)たる態度を取るべきでした。「外交問題は、そんな簡単なものではない」としたり顔で言う専門家もいますが、外交にあっても、やはり、重要なことは、「事実はどうであったか?」ということを、きちんと検証していく姿勢ではないでしょうか?

 戦争時の労働力不足を補う「徴用」は、諸外国でも行われていたことであり、給料も払われていました。韓国側が言うような「強制労働」という事実は確認されていません。

 ささいな民事裁判ですら、お互いの主張が食い違えば、「事実は何か?」「その事実を証明する証拠はあるか?」ということを厳密に調査します。例えば、「殴られたから、慰謝料を払え」という裁判では、殴られた事実(いつ、どこで、誰に、どのように殴られたのか)を証拠によって証明しなければなりません。しかし、実際には殴られていなくても、相手方が「殴った」と認めてしまえば、証拠によって証明する必要はなくなります。これを「裁判上の自白」(自己に不利益な事実を認めること)といいます。そして、いったん「自白」してしまったものは、原則として撤回できません。

 そのため、われわれ弁護士は、裁判では「どの事実を認め、どの事実を認めないか」ということを慎重に検討します。

 このように、ささいな民事裁判ですら「自白」には大きなリスクが伴うというのに、国益を損ねる不利益な事実を真実でないにもかかわらず、いとも簡単に認めてしまう日本政府の無策ぶりには呆(あき)れてしまいます。結局、日本政府が「強制労働」の事実を「自白」してしまったようなものであり、韓国側は、もはやこれを証拠によって証明する必要はなくなりました。当然、証拠などないのですが…。

 今回の件は、日本政府が西洋的価値観に安易に追随して「世界遺産」登録に奔走したあげく、韓国の反日プロパガンダに屈して国益を損ねてしまうという結果に終わりました。一体、誰の、何のための活動だったのでしょうか?日本政府の対応は、「国家の名誉、国民の尊厳」を守り抜くという日本人としての矜持(きょうじ)に欠けていると言わざるを得ません。

                  ◇

【プロフィル】堀内 恭彦

 ほりうち・やすひこ 昭和40年、福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学法学部卒。弁護士法人堀内恭彦法律事務所代表。企業法務を中心に民事介入暴力対策、不当要求対策、企業防衛に詳しい。九州弁護士会連合会民事介入暴力対策委員会委員長などを歴任。日本の伝統と文化を守る「創の会」世話人。趣味はラグビー。