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【国家を哲学する 施光恒の一筆両断】18歳選挙権「おかげさま」の自覚

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【国家を哲学する 施光恒の一筆両断】
18歳選挙権「おかげさま」の自覚

 選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる公職選挙法改正案が17日、国会で成立しました。来夏の参院選から、18歳以上が有権者となります。

 従って中学校、高校でのしっかりした有権者教育が求められます。

 政府もこの点は認識しており、数年前から「主権者教育」の充実を模索してきました。平成23年には、総務省管轄下の「常時啓発事業のあり方等研究会」が「社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を目指して--新たなステージ『主権者教育』へ」という報告書を出しています。社会に対して積極的に意見を述べ、参加する「アクティブ・シティズン」(能動的市民)の育成がキーワードとなっています。

 この総務省の研究会が主な手本としたのは英国です。英国の中等教育では、「シティズンシップ」(市民性)という授業が設定され、有権者教育が非常に重視されているのです。

 日本の実態ははどうでしょうか。例えば、神奈川県では「将来、積極的に政治参加する市民を育てる」ことを目的に、22年からすべての県立高校で模擬選挙を実施しているそうです。実際の政党や候補者の見解を学び、いわば投票の予行演習を行うという試みです。

 こうした有権者教育の背景にあるのは、欧米的な合理的選択者としての市民のイメージだといえます。自分たちの権利や利害を主張し、積極的に政治参加する市民像です。

 私は、このような市民像に基づく有権者教育も大切だと思いますが、これだけでは一面的だと感じます。

 文化人類学者の栗田靖之氏が以前、興味深いことを述べていました。欧米では、個々人が、互いに自分の権利を主張し、その間にうまく「おりあい」を付けていくのが民主主義だと理解されてきました。他方、「寄合」など日本の民主的審議の伝統は、これとは少々異なります。自らの欠損、欠陥を自覚することにより、謙遜の気持ちが生まれ、そこから各人の主張の「おさまり」を見いだすのが、日本での話し合いだったと、栗田氏は指摘しています(梅棹忠夫、栗田靖之編『知と教養の文明学』中央公論社、1991年)。

 これを私なりに解釈し、日本の民主主義の理想的担い手の像に結び付けるとすれば次のように言えます。

 人は、自分自身だけで存在しているのではない。他者の厚意や、国や地域の伝統文化の蓄積、先人の苦難のうえに今の自分がある。つまり、「おかげさま」で生きている。自分の権利や利害を主張するだけでなく、地域や国のあり方、文化伝統に大いに関心を持ち、さらなる発展に貢献し、次世代へ引き継ぐ義務や責任も負わなければならない。こうした自覚を持つ者こそ、よき有権者である。

 このように言えるとすれば、有権者教育では、児童・生徒に、有権者としての権利や諸々の政治的知識やスキルを教えるのと同時に、自分は「おかげさま」で生きているという自覚を身に付けさせることもまた重要となってきます。この自覚こそが、公共の事柄に対する関心と責任の基礎だからです。

 よりよき有権者教育のあり方を、歴史や地理、道徳などの授業とも連携を図りつつ、活発に探求していく必要があるといえるでしょう。

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【プロフィル】施 光恒

 せ・てるひさ 昭和46年、福岡市生まれ、福岡県立修猷館高校、慶應義塾大法学部卒。英シェフィールド大修士課程修了。慶應義塾大大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。現在は九州大大学院比較社会文化研究院准教授。専攻は政治哲学、政治理論。趣味はアルゼンチン・タンゴ。