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【被災地を歩く】岩手県宮古市の浄土ケ浜 三陸の景勝地、復興へ道半ば

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【被災地を歩く】
岩手県宮古市の浄土ケ浜 三陸の景勝地、復興へ道半ば

 四半世紀ぶりに訪ねた三陸沿岸を代表する景勝地はあいにくの雨だった。

 岩手県宮古市の浄土ケ浜。高台の駐車場から坂を下って、浜近くのレストハウス前に着く。「さながら極楽浄土のごとし」。江戸時代の僧侶が感嘆したと伝えられる絶景はそのまま。津波が押し寄せた浜のどこにも東日本大震災の爪痕は見当たらなかった。

 ところが、震災直後の浜には、悲惨な光景が広がっていた。材木とがれきで浜が埋め尽くされ、平成22年4月にオープンしたばかりのレストハウスは2階建ての内部がメチャメチャに破壊され、引き波で浜の小石がえぐられ、絶景は見る影もなかったという。

 「レストハウスは公設民営(建物は宮古市が整備、運営は宮古観光文化交流協会)です。震災直後は窓ガラスがすべて割れ、レストランのいすやテーブルは一つも残っていませんでした。建物は解体され、再開できるとは思えなかったし、浜も観光地として終わりかなと、思っていました」。協会の山口惣一事務局長がこう振り返る。

 ◆ボランティアの力

 それが、震災からわずか半年の9月上旬には絶景を取り戻していた。県内外の観光関係団体を中心にボランティアが浜のがれきを片付け、流れ着いた100本以上の材木は流出先の業者が回収、宮古市が最優先の被災者支援や市街地の復旧と並行して、えぐられた浜をもとに戻す復旧作業を進めたからだ。

 市商業観光課は震災直後の対応について、「観光業は宮古市の主な産業の一つ。浄土ケ浜は三陸で一番の景勝地であり、宮古市の観光の柱です。早急に復旧させないと、観光の衰退を招いて、震災からの復旧・復興にも影響してしまうという判断があったと思います」と説明する。

 24年7月にはレストハウスも再オープン、海水浴場も再開された。震災前の22年の57万3453人から23年に13万9867人落ち込んだ浜全体の入り込み客数は24年に42万7394人まで回復。25年は71万8659人、26年は78万7394人と震災前を大きく上回るまでになった。

 「レストハウスが1年ちょっとで再開できるなんて、本当にありがたかった。それに『あまちゃん』(岩手県久慈市を舞台にしたNHK連続テレビ小説)効果もあって、三陸鉄道に乗りたいという観光客の方も増えてます」と山口事務局長。レストハウスの島崎準支配人は「観光ツアー客が震災前の1・6倍に増えました」と話す。

 ◆懸命な努力続く

 平日であいにくの雨にもかかわらず、レストハウス前にはツアー客を乗せたバスが相次いで到着。傘を片手に浜を回り、レストハウスでお土産の品定めをしたり、腹ごしらえをしたり。レストハウス前に陣取る20羽ほどのカモメはツアー客が破いた菓子袋からこぼれた餌に群がった。

 「現在は藤岡市(群馬県)ですが、盛岡市出身で40年ぶりに訪ねました。三陸鉄道に乗るのが主目的でしたが、やっぱりいいですね。晴れたらもっとよかったけど、津波で被災したとは思えなかった。復興のシンボルですね」。客の主婦(69)が、そう言ってほほ笑んだ。

 三陸を代表する景勝地は順風満帆に見える。しかし、震災前に18軒を数えた民宿は山側にあった2軒しか残っていない。宿泊客はほとんどが復興工事関係者。震災復興には宿泊客増が課題だ。ウニや毛ガニなど地場の海産物を活用した旅行商品も開発、懸命の努力も続いている。「震災復興で三陸道の整備も進み、観光の復興はこれからがむしろ本当の勝負」と話す山口事務局長の厳しい表情が印象に残った。(石田征広)