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九州大の箱崎キャンパス、「解体ありきでなく保存検討を」更地造成に疑問の声続々 福岡

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九州大の箱崎キャンパス、「解体ありきでなく保存検討を」更地造成に疑問の声続々 福岡

大正14年に建てられた「保存図書館」も耐震性の問題から解体される方針となっている

 九州大の伊都キャンパス(福岡市西区、福岡県糸島市)移転に伴う箱崎キャンパス(福岡市東区)再開発が揺れている。歴史的建築物について九大は、ごく一部を除いて取り壊す可能性に言及しており、これに地元の建築家や住民、跡地購入を検討する一部の事業者から、保存・活用を求める声が上がっている。(奥原慎平)

 「大正や昭和初期の近代建築物を、可能な限り保存することが歴史と風格に配慮したまちづくりにとって重要だ」

 西日本鉄道は27日、箱崎キャンパス内の建築物解体の延期を求める要望書を、九大に提出した。

 西鉄は箱崎キャンパスの跡地購入を検討している。キャンパス内に残る歴史的建築物について、飲食施設やマンションなどへの転用も可能だとし、保存・活用を九大側に再三訴えてきた。それでも、九大の方針は変わらず、要望書提出に至ったという。

 同社企画開発部の花村武志課長は「歴史ある建物が並ぶ広大な土地開発は、福岡市の特異性を表現できる。耐震性など難しい側面も確かにあるが、解体方針はあまりにも拙速ではないでしょうか。耐震性などについて詳細に調査する時間すらない」と語った。

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 箱崎キャンパスは明治44年、九州帝国大として開設された。43ヘクタールの敷地に、大正~昭和初期の建築物22棟が現存する。このうち、「旧工学部本館」や現「グラミンクリエイティブハウス」など5棟は平成20年度、経済産業省から「近代化産業遺産群」に認定された。

 一方、九大は17年度から、伊都キャンパス移転を進める。箱崎キャンパスは基本的に更地にした上で、民間に売却される予定となっている。

 今年3月に九大が策定した跡地利用計画では、「グラミンクリエイティブハウス」や「道路工学実験室」など8棟は、耐震性に問題があるとして、解体する方針を示した。

 保存を打ち出したのは、「旧工学部本館」など3棟と正門だけ。その他の11棟について九大側は「可能な限り保存する」としているが、売却先の事業者に強制力は及ばず、取り壊される可能性も高い。

 九大統合移転推進課は解体の理由として、倒壊の恐れがあることや、土壌汚染の調査が必要なことを挙げる。また、跡地の売却益をキャンパス移転経費にあてることから、なるべく高く、早期に売りたいという狙いもある。

 同課の担当者は「無人の建物を一定期間残せば、ゴーストタウンのようになり治安悪化と地域の活力低下につながる」と説明した。

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 だが、この方針に対し、学内や民間事業者から疑問の声があがる。

 工学部の末広香織准教授(建築学)は「更地化について、一部で粛々と決められ、建築関係者でも知らない人が多いのではないか。40ヘクタールもの更地化を許せば『九大には歴史建築の重みを理解できる人間がいない』と笑いものになってしまう」と嘆く。

 今月19日、昭和6年完成の「グラミンクリエイティブハウス」に、住民や卒業生ら300人が集まった。5月に解体工事が本格化するのを前に、84年の歴史に別れを告げようと、関係者が見納めパーティーを開いた。

 外壁は表面をくしで削ったような凹凸の「スクラッチタイル」を採用。光の反射が少なく、重厚な雰囲気を醸し出す。

 企画した1人、建築家の斉藤昌平氏は「現代建築には見られない手法。本物を残すことに価値があると思うんですが」と残念がる。

 様式の珍しさだけではない。

 この建物は平成23年、社会問題の解決を、ビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの研究拠点となった。その改修の際、障害を抱える芸術家が壁画を描き、広く知られるきっかけになったという。

 ソーシャルビジネスを研究する岡田昌治教授(国際法務)は「思い出が詰まった建物。パーティーを開くことで、少しでも多くの建物を残すきっかけにしたい」と語った。

 NPO法人「福岡建築ファウンデーション」理事長の松岡恭子氏は「街が培った時間の連続性を重んじることで、その街の独自性がでるのではないか。福岡市は歴史的建造物が少なく、大学にはぜひ保存に挑戦してほしい」と期待する。

 久保千春学長は産経新聞の取材に「歴史的な建物を後世に残すべきだとの考えは同じ。あとは担当部署の意見などを基に考えたい」と語るにとどめた。

 九大は跡地利用計画に基づき、今秋から、エリアごとに開発事業者の公募を始める。