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復権?長距離フェリーに新船続々 景気回復追い風、安全輸送で再評価

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復権?長距離フェリーに新船続々 景気回復追い風、安全輸送で再評価

21日に就航した阪九フェリーの「ひびき」

 九州を発着する国内長距離フェリー5社が、平成28年度にかけて相次いで新船を投入する。リーマン・ショックの影響で、トラックなど自動車の利用が減少し、フェリー業界は苦境が続いていたが、ここにきて追い風が吹き始めた。アベノミクスによる景気回復に加え、長距離運転によるドライバーの負担軽減という観点から、フェリー輸送が再評価され始めたからだ。

 昭和43年に国内で初めて、片道300キロ以上の長距離フェリーを就航した阪九フェリー(北九州市門司区)は21日、新造船「ひびき」(1万6千トン)を大阪航路(泉大津港)に投入した。瀬戸内海を航海するフェリーとして最大級となる。同社は今年1月にも同型の「いずみ」を大阪航路に投入している。新船投入は12年ぶりだ。

 「ひびき」「いずみ」は三菱重工業下関造船所(山口県下関市)が建造した。船底を大量の泡で包み込むことで水の抵抗を減らし、燃費を向上させる最新技術を導入している。

 搭載可能量はトラック277台、乗用車188台と既存船に比べ2割増しになるが、燃料費は20%近く削減できるという。

 「フェリーを動かす重油代は年40億円に上ります。燃費のよい新船に切り替えることで、8億円のコスト削減が可能で、利益増につながる」

 米田真一郎社長は、こう説明した。

 新船投入は阪九フェリーだけではない。他社もすでに決断したり、検討を始めている。

 新門司-大阪南港を結ぶ名門大洋フェリー(大阪市)は総トン数1万5千トンの大型フェリー2隻を9、11月に相次いで就航する。従来船(9500トン)に比べ、トラック搭載能力が3割増の145台となる。燃料費は3割節約できるという。フェリーさんふらわあ(大分市)も、来年度中に志布志(鹿児島県)-大阪南航路の2隻を新しくする方針だ。

 ◆苦境の業界

 九州の港を発着する長距離フェリーは計8航路と、全国(11航路、8社)の7割を占める。高速道路が未整備の昭和40年代、九州と関西を結ぶ航路が次々と開けたからだ。

 だが、平成20年以降、フェリー業界は大打撃を受ける。

 リーマン・ショックで企業活動が低迷し、人・物の動きが鈍化した。さらに、当時の麻生太郎政権が景気刺激策として、「千円高速」など高速道路料金の大幅引き下げを打ち出した。このため、多くのトラックが「フェリーから高速道路」へ、シフトした。

 阪九フェリーでみると、20年度の搭載トラック台数は、前年度に比べて10%の大幅減少となった。同社は所有するフェリー6隻のうち、2隻を売却した。

 21年には、防予汽船(山口県柳井市)や大分ホーバーフェリーが破綻した。

 ◆イメージ戦略

 風向きが大きく変わったのは、平成23年になってからだった。

 この年の6月、東日本大震災の復興財源捻出を目的に、「千円高速」など高速料金値下げ施策が終了した。

 さらに24年4月に群馬県の関越自動車道で起きた高速ツアーバスの事故も、フェリー見直しの契機となった。バスだけでなく、トラック業界でも、長時間運転が問題視されるようになった。国土交通省は25年10月に出した通達で、長時間運転など重大な法令違反に対する罰則を強化した。

 こうしたことから、トラック業界の中で、乗船中はドライバーを休ませることができる長距離フェリーが見直されるようになった。

 アベノミクスによる景気回復も後押しとなり、平成25年度の九州発着長距離フェリーの車両輸送実績は、前年度比4・3%増の111万5千台に達した。旅客数も4・7%増の149万9千人だった。

 フェリー業界は今、ようやく吹き始めた順風をさらに生かそうと、イメージ戦略に乗り出している。

 阪九フェリーは新たに導入した「ひびき」「いずみ」を「海を走るホテル」として売り出す。

 女性用トイレにパウダールームを設けた。船内に絵画を飾り、最上階の7階には露天風呂も備えた。5階のステージでは、アコースティックギターの弾き語りが船旅ムードを高める。

 阪九フェリー社長の米田氏は「これまでフェリーといえば、男たちが雑魚寝するイメージがあった。ですが、1万円払えば、宿泊も兼ねて移動できるという点がフェリーであり、くつろぎの船旅を見直してもらいたい」と意気込む。