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【みちのく会社訪問】オイカワデニム(宮城県気仙沼市)

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【みちのく会社訪問】
オイカワデニム(宮城県気仙沼市)

 ■地域資源活用で復興を後押し

 宮城県気仙沼市にあるジーンズなどデニム製品の製造、販売会社「オイカワデニム」。縫製技術の高さで世界的に知られ、国内外のジーンズファンに愛される名品を生み出してきた。

 同市は東日本大震災で大きな被害を受けた。高台にある同社の工場は津波の被害を免れたが、製品倉庫と約5千本のジーンズが流された。後日、がれきの中から見つかった約40本のジーンズは津波にもみくちゃにされながら、糸に1本のほつれもなかった。その姿は復興のシンボルとして被災者を勇気づけた。

 ジーンズの丈夫さには定評があり、震災で証明される形となったが、「自分たちの仕事に改めて自信を持ちました」と常務の及川洋さん(41)は振り返る。優れた耐久性は強度の高い麻糸で縫製する同社独自の技術にある。もとは作業着だったジーンズの原点である丈夫さを追求し、ミシンに用いるのは難しいとされた麻糸でのデニム縫製に成功した。

 ◆ブランド立ち上げ

 国内外の有名メーカーのOEM(相手先ブランドによる生産)が経営の柱だったが、「下請けを脱却しよう」と、平成17年に自社ブランド「STUDIO ZERO(スタジオ・ゼロ)」を立ち上げた。国内では自社ブランドとOEMの競合という難問があったが、好機がめぐってきた。

 18年に営業先の東京で出会ったイタリアのバイヤーから「お前のはいているジーンズはどこのだ」と問われ、及川さんは自社製を強調。そのバイヤーに「来い」と誘われ、翌19年にイタリアの展示会に出展し、目の肥えた世界各国のバイヤーに品質の高さが認められた。これで海外展開の道が開かれ、ピーク時には伊、独、露など6カ国で40店舗と取引があった。

 スタジオ・ゼロは生地から製品まで全て日本人が携わる純粋な「Made in Japan(メード・イン・ジャパン)」。及川さんは「欧州には職人を大事にする文化があるので当社の仕事が高く評価されたと思います」と分析する。

 ◆さまざまなアイデア

 震災後、新ブランド「SHIRO(シロ) 0819」を立ち上げ、被災した大漁旗や漁網、サメ皮、アワビの貝殻を使ったバッグなど水産都市・気仙沼の物を活用した商品を作り出してきた。

 気仙沼は全国一のふかひれ(サメのひれ)の産地。サメの皮は廃棄されてきたが、「水産加工会社に皮をなめしてもらい、当社が買うことで仕事ができます」と及川さん。地域資源を商品に取り入れることで、雇用を生み、復興につなげたいとの思いがある。

 ブランド名のシロは「無色透明」を表し、使う人が商品に色を付けていく、復興とともにまちに色が付いていくという2つの意味を込めた。売り上げの一部は、地域の漁協などに寄付したほか、海外の自然災害の被災地へ義援金として送ってきた。

 地域資源では、気仙沼港はカジキマグロの水揚げ日本一を誇ってきた。カジキマグロの角(吻(ふん))は切り捨てられるが、「角を生地に活用したい」と話す及川さん。さまざまなアイデアが湧き上がる。(石崎慶一)

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 ◆企業データ

 宮城県気仙沼市本吉町蔵内83の1。資本金500万円。及川秀子社長。もとは呉服屋を営んでいたが、社長の亡夫が昭和56年にジーンズの縫製事業を起業し、62年に有限会社を設立した。従業員23人。デニム製品の企画、製造、販売。問い合わせは(電)0226・42・3911。

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 【取材後記】高台にあるオイカワデニムの工場は、東日本大震災のときに住民ら約150人の避難所となった。漁業者の避難も多く、「生活サイクルの違いから震災前はほとんどなかった漁師さんとの接点ができました」と常務の及川洋さん(41)。こうしたことが地域を見直す契機となり、ブランド「SHIRO 0819」につながったという。同ブランドはビジネスの手法で社会的課題の解決に取り組む「ソーシャルビジネス」の典型でもある。独自の縫製技術などオンリーワンを追求する同社。今後の展開が注目される。