産経ニュース

【上州リポート】ネットで荒稼ぎ、記憶喪失の男に懲役2年求刑

地方 地方

記事詳細

更新

【上州リポート】
ネットで荒稼ぎ、記憶喪失の男に懲役2年求刑

 ■自分は誰?逮捕されれば分かる

 動画投稿サイト「FC2」にテレビドラマなどを違法アップロードし生活保護費を不正受給したとして、著作権法違反と詐欺の罪で起訴された男の公判が26日、前橋地裁(川崎学裁判官)で開かれ、検察側は懲役2年、罰金30万円を求刑、結審した。男は平成20年3月に静岡県熱海市の路上で倒れているところを発見され、記憶喪失と診断された。自らの素性を知るために始めたインターネットを駆使しFC2で稼いだ総額は1千万円以上。公判では「警察に逮捕されれば、自分が誰か分かると思った」などと動機について話した。判決は2月9日。

                   ◇

 ◆全て失い生活保護

 男が熱海市で発見されたのは20年3月14日。外傷はなく、財布は所持していたが、身元を示すものは何もなかった。「自分自身に関する記憶」を全て失い名前も分からなかったため、男は搬送先の病院で「鈴木太郎」と名付けられた。

 鈴木被告は退院後、神奈川県湯河原町土肥のアパートで1人暮らしを始め、20年6月には同県小田原市の福祉事務所に無収入申告をし、同月27日から生活保護費を受給していた。

 「自分の素性を知りたい」とインターネットを始めたが、有力な情報は得られず、「違法行為をすれば警察に逮捕され、指紋などから自分が誰か分かるのでは」と、FC2へ違法投稿するようになったという。

 24年11月からの約2年間で稼いだ総額は約1070万円。多い月は約70万円を稼ぎ、自宅のパソコン4台を駆使しテレビ番組などの録画と投稿を繰り返した。

 投稿作品は少なくとも2千本以上で、県警生活安全企画課サイバー犯罪捜査室によると、違法な動画配信の収入としては県内で最高額といい、全国的にみても異例の額だという。

 ◆海潜れば戻るかも

 生活保護法の規定では、収入がある場合には申告をしなければならないが、鈴木被告は25年6月、小田原の福祉事務所に再度、無収入申告を行っている。

 それに先立つ25年3月には、生活保護費の受給を続けるため湯河原町のアパートは残したまま、本拠地を静岡県沼津市に移した。生活保護法では、福祉事務所の職員などが受給者の自宅を定期的に訪問することが義務付けられ、登録住所に生活実態がないと判断されれば、支給は止められる。そのため湯河原のアパートには家財道具を置き、職員訪問の際は沼津から湯河原に戻っていた。「唯一の身分証である生活保護受給者証を失うわけにはいかなかった」が理由だった。

 リスクを冒して鈴木被告が沼津に移ったのはスキューバダイビングのインストラクター資格を取得するためだった。鈴木被告は熱海市で発見された際、ダイビング用の時計を持っており「海に潜れば記憶を取り戻せる」と考えたという。

 ◆自分の記憶に蓋

 鈴木被告の記憶喪失は正確には「全生活史健忘」といい、解離性障害の一つ。大きな心理的ストレスがかかった場合などに、ストレスから自身を守るため発症するとされ、専門家は「自分の記憶に蓋をする」イメージだという。中には、記憶の手がかりになる人や物に触れることで記憶を取り戻す人もいるとされる。

 4台のパソコンを駆使し荒稼ぎをしていた点に強い違和感は残るが、この病気の場合、食事や洗濯、車の運転など動作に関することはできる場合が多く、パソコンの操作を覚えていたとしても、不自然ではない。

 ある専門家は「全生活史健忘を発症したと主張する人が仮に嘘をついていたとしても、それを医学上、見破るすべはない」という。一方で「自分自身に関する記憶がなくなっても、責任能力がないことにはならない。罪は罪だ」と語った。(大橋拓史)