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【静岡人語り】「沼津港深海水族館」館長 石垣幸二さん(47)(下)

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【静岡人語り】
「沼津港深海水族館」館長 石垣幸二さん(47)(下)

 ■深海魚をかっこよく見せて  環境考えるきっかけの場に

 水族館をつくる計画がスタートしましたが、準備期間はたった1年しかありませんでした。その上、敷地が100坪という日本最小のサイズで、前途多難の船出でした。何か特色あるものをやらないといけない中、シーラカンスを展示して、深海というキーワードに結びつけようと考えました。今思えば、日本一深い駿河湾は深海魚が豊富で、その目の前で漁ができる場所は世界にもありません。沼津港は深海を語るには最高の場所だったのです。

 シーラカンスは深海魚の代表格で、姿を変えず3億5千万年生きてきたといわれています。もともと、北陸にある動物園のオーナーが5体保有していましたが、平成20年に私がテレビ番組の「情熱大陸」に出演したことをきっかけに、シーラカンスを展示したりする営業権を譲り受けました。しかし、そのオーナーが高齢で体調もよくなかったことから、数億円で海外に売る話が浮上しました。「希少なシーラカンスをただ右から左へ売ってしまっていいのか」。そう自問自答していたとき、水族館をつくる話が舞い込んできたのです。そして構想を練っていく中で、シーラカンスを購入することを決めました。

 目玉はシーラカンスに決まりましたが、一番不安だったことは、長期的に何十種類もの深海魚を見せ続けられるかどうかでした。深海魚は入手も飼育も難しいことに加え、5月中旬から9月中旬までは禁漁期なので、書き入れ時に漁ができないのです。ただ、深海水族館と名付けた以上、365日、深海魚を入れないといけない。私は館長である前に、魚を捕ることが本業なので、とにかく毎週漁に出るしかないと思いました。早いときは朝2時に起きて船をチャーターして、10時間から12時間海の上にいます。問題は船に部屋がないので吹きっさらしで寒いんですよ。雨が降ると悲惨で、冬は極寒です。あとは、他の水族館と生物を交換したり、禁漁になる前に多めに捕ってストックしたりする体制を取りました。

 深海魚の見せ方にも苦労しました。深海魚は動かないし、水槽も暗い。一般的な目から見て、おもしろくとも何ともないんですよ。そこで、目で見てつまらないなら耳で楽しませようと思い、深海魚にオリジナルの音楽を作って水槽の前で流すことにしました。さらに、深海という世界観を表現するため、照明が当たっている場所を通ると魚が見える仕掛けにしたり、水槽の段差を微妙にずらして立ち止まる余韻をつくったりと、いろいろと工夫を凝らしました。

 深海水族館はなんとかオープン日に間に合いましたが、本当に人が来てくれるのか不安でした。初年度の来場者目標は20万人でしたが、結果的に23万5千人が来てくれました。2年目は26万5千人で、3年目は42万人もの人が来てくれました。水族館は通常、2年目以降は来場者が減る傾向にありますが、3年連続で増加するのは異常です。どう調べても全国にそんな例はないと思います。

 深海について学ぶことは、地球の環境について考えることにもつながります。シーラカンスのような深海魚が絶滅すれば、深海の環境が変化したことを意味します。それは地球にとっては大問題なのです。つまり、深海生物に思いをはせることは、環境を考えることと同じなのです。水族館は、そんな生物たちをかっこよく、かわいく見せて、感動を与えることで、環境について考えるきっかけづくりをする場所だと思っています。

 深海は“地球最後のフロンティア”と呼ばれるように、その謎はベールに包まれています。この仕事を生涯続けても、これだという答えはおそらく出ないでしょう。それでも、最後まで海の奥の奥まで追究して、新しい発見を一つずつ積み上げていきたいです。それが私の使命だと思っています。(構成 広池慶一)

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 次回からは元レーサーでレーシングチーム「トムス」監督の関谷正徳さんです。

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【プロフィル】石垣幸二

 いしがき・こうじ 下田市出身。平成12年に海水魚を卸売りする「ブルーコーナー」を設立。“海の手配師”として、世界約30カ国の水族館や博物館と取引をしているほか、水族館のリニューアル工事や水槽メンテナンスを請け負うなど幅広く活動中。23年12月に、「沼津港深海水族館」の館長に就任した。