産経ニュース

松代大本営説明板 長野市、「さまざまな見解」表記に反映へ

地方 地方

記事詳細

更新


松代大本営説明板 長野市、「さまざまな見解」表記に反映へ

 長野市の「松代大本営」の象山地下壕(ぞうざんごう)入り口の説明板で、朝鮮人労働者らが作業に加わった経緯について「強制的に」と記していた部分を同市がテープを貼って削除していることをめぐり、同市は25日、新たに作る説明板の表記内容を決める庁内検討会の2回目の会議を開いた。

                    ◇

 冒頭、加藤市長は「説明板にテープを貼った件が問題となり、9月議会でも質問があった。しっかりとした市の意思を出していきたい」と強調した。

 その後、非公開で行われた会議では、新たな説明文の案を基に表記内容などについて検討が行われ、「強制性などの史実についてはさまざまな見解がある」ことを踏まえた内容にする方針が確認された。

 今後、さらに表記内容の検討を進め、10月1日に行う次回の検討会で新たな説明文の案を固め、同日の部長会議で正式決定する予定だ。

 加藤市長は会議後、報道陣に対し、「案は詰まってきた。全てが強制的だったという意味にならないような表現にしたい」と述べた。

                    ◇

 ■【視点】「強制的に」削除当然 禍根残さぬよう

 長野市は「松代大本営」の新たな説明板の表記について10月1日に結論を出す。表記は客観的な事実に基づいた内容とし、将来に禍根を残すことがないよう求めたい。

 この問題は、説明板で朝鮮人労働者らが作業に加わった経緯について「強制的に」と記していた部分を、市がテープを貼って削除していたことが判明し問題となった。9月定例市議会でも、共産党議員らがこの対応について「歴史的事実を曲げることになり、強く抗議する」(共産党の原田誠之氏)などと批判した。

 しかし、ちょっと待ってもらいたい。確かに説明もなくテープを貼るという対応はお粗末だが、「強制的に」の文言を削除したことは間違ってはいない。「歴史的事実を曲げていた」のは、テープを貼る前の説明板の表記の方なのである。

 元の表記は松代大本営の工事に「延べ三百万人の住民及び朝鮮人の人々が強制的に動員され、」となっていた。この文脈では「延べ三百万人の労働者全員が強制的に動員された」ことになり、明らかに事実に反している。強制的な動員がなかったというつもりはないが、賃金などを目的に自発的に労働に参加した人もいたとの証言は現にある。元の表記から「強制的に」の文言を削除するのは当然のことだ。さらにいえば「延べ三百万人」という数字も根拠は不明で、この部分も見直す必要がある。

 国では慰安婦募集の強制性を認めた河野談話の正当性が問題となっており、朝日新聞は慰安婦報道の一部を虚偽と認めて取り消した。先の戦争で旧日本政府や軍が行ったことを、事実と裏付けされていないことまで、ただ自虐的に伝えさえすれば平和につながると考えるのは大きな間違いだ。逆に慰安婦問題のように誤った歴史認識を国内外に植え付け、国や国民の名誉をおとしめる危険性がある。歴史とくに戦争中の出来事にはさまざまな側面があり、それらを冷静、客観的にとらえる思考と努力こそ必要だ。

 信濃毎日新聞は8月9日付の社説で「説明板を書き直すなら、市自身が議論に耐えうる調査をし、丁寧な説明をすべきだ」と主張した。しかし、河野談話の検証で明らかになったように、歴史の事実解明は極めて難しい。証言は必ずしも事実とは限らず、裏付けをしなければならない。河野談話はそれを行わずに出したことが問題なのである。

 国でさえそうなのに、市という自治体が過去の歴史について事実を調査し、公式な見解を示すことは不可能だ。ここは明らかに事実に反する「強制的に」という文言を削除して、当時の労働の経緯については「さまざまな見解がある」という、現時点での客観的事実を付記するのが妥当だ。

 それによって、見学者に誤った先入観を与えることなく、当時の歴史を自分なりに考える機会としてもらうことが、戦争史跡としてあるべき姿だろう。(高橋昌之)