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【北九州再興への選択】(上)風雲急を告げる市長選

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【北九州再興への選択】
(上)風雲急を告げる市長選

 「私を育てていただいた北九州の将来のため、命がけで戦い抜く決意です。秋には改めて皆さまに決意を表明させていただく。それには市議会の最大会派(自民党)を含めて党派を超えた信頼関係をどこまで築けるかにかかっています。がんばります!」

 8月5日夜。北九州市長の北橋健治(61)は、同市小倉北区のリーガロイヤルホテル小倉で開いた政治資金パーティー「北橋健治を囲む集い」で叫ぶような口調で訴えた。

 来年2月に任期満了を迎える北九州市長選まで、まだ半年ある。だが、会場には地元経済界や市民団体などから約1千人が参集し、出席者の多くは「3選出馬する意向だと受け止めた」(連合福岡会長の高島喜信)という。

 北橋はこれまで7年半の市政運営を振り返り、「市議会各会派の力強いご支援」へ感謝の言葉を繰り返した。

 だが、パーティーには国会議員や地方議員を1人も招待しなかった。「市民党を掲げており、余計な政治色を出さないため」(後援会関係者)だ。

 兵庫県西宮市出身の北橋は、新日鉄(現新日鉄住金)系労組に支えられ、昭和61年の衆院選に、民社党公認で中選挙区時代の旧福岡2区から出馬し初当選した。以後、新進党、民主党と移り、衆院議員を6期目途中までの20年余り務めた。

 北九州市長を5期20年務めた末吉興一の勇退に伴い、平成19年2月の市長選に民主・社民・国民新推薦で出馬。「清新」「親しみやすい」イメージで支持を広げ、政権与党の自民、公明推薦の元国土交通官僚を破り、市長に就任した。

 当選後、北橋は「市民党」を名乗り、民主党色の打ち消しを図った。市政運営では市議会に配慮をし、最大会派・自民党も抱き込んでオール与党態勢を築く。

 23年2月の市長選では、政党推薦を一切受けずに出馬し、共産推薦候補との一騎打ちを得票率73・6%で圧勝した。実質的には共産党をのぞく各会派の後押しを受けての戦いだった。

 当時、民主党の菅直人内閣は支持率が低下していた。3カ月前に行われた福岡市長選では自民・公明の支援を受けた新人候補が、民主・国民新党推薦の現職を破った。

 自民党にとって、北九州市長選は福岡県での党勢回復の絶好の機会だったが、市議団の意向で独自候補を擁立しなかった。北橋の「市民党」戦略に自民党も乗っかったといえる。

 中でも、市議会の実力者である自民党市議団団長の片山尹(おさむ)は、北橋と良好な関係を築いてきた。片山の意向は市政にも色濃く反映される。

 市の元幹部職員は「市長は、片山さんらの要求をできる限り聞いてきた。といっても市長は取り込まれたのではない。その逆で、上手に自民党市議団を味方に付けたのだ」と語る。

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 北橋は目立った失政はない。温厚で親しみやすい人柄もあり「次も北橋で決まりだろう」。こんな観測が流れ始めた北九州市長選は、今年6月になり、風雲急を告げた。

 「今のままではいけない。北九州の再生のために自民党は候補者を立て、戦わねばならない。相乗りはしない。県議、市議も党員であるなら支えるべきだ」

 6月28日、自民党市議、三原征彦の市議会議長就任パーティー。演壇に立った副総理兼財務相の麻生太郎(衆院福岡8区選出)は約1200人を前に、独自候補擁立の方針を示した。

 政権ナンバー2の麻生の言葉は重い。

 しかし、自民党市議団22人のうち、その場にいたのは9人に過ぎなかった。片山ら北橋続投を支持する半数強の市議は欠席した。

 麻生発言から数日後の7月初旬、北橋支持派の自民党市議団幹部は東京にいた。選挙を取り仕切る党幹事長の石破茂を訪ねた。

 「今の市長でいきたい」

 関係者によると、独自候補を立てるべきでないと直談判した市議団幹部に対し、石破は明言を避け、「原則独自候補を出すべきだが、市議団はまとまってほしい」と応じたという。

 自民党本部は、都道府県知事選と政令市長選では相乗りしない方針だ。石破は7月28日、来春の統一地方選を念頭に「宝くじも買わねば当たらないし、候補者は立てなければ勝てません」と、独自候補擁立の重要性を強調した。

 にも関わらず、北九州市長選に関しては、今のところ「洞ヶ峠」を決め込んでいるように見える。統一選や、ポスト安倍を見据えて地方組織に気を使っているのか、あるいは、自公推薦候補が元民主党衆院議員に敗れた滋賀県知事選(7月13日)のショックを引きずっているのか…。

 石破の姿勢に、ある自民党県連幹部は「いくら市民党といったって、北橋氏が民主党衆院議員だったことは、地元はみんな知っている。国政で安定政権を築いている自民党が、政令市の市長選で不戦敗なんて恥ずかしいまねができるものか」と反発する。

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 3選出馬が確実視される北橋に対し、自民県連最高顧問の麻生や県議の多くは主戦論で、地元・北九州市議団の過半数は対決を回避しようとしている。

 北九州市を選挙区とする2人の自民党衆院議員-三原朝彦(福岡9区)と山本幸三(福岡10区)も、市議団との関係から北橋続投に傾いているとみられ、市長選をめぐる動きは今ひとつだ。

 麻生周辺は、新日鉄住金八幡製鉄所(北九州市)の元幹部社員(56)に目を着けた。だが、水面下の調整がうまく行かず、ご破算となった。

 北橋支持派に軍配が上がるかに思われたが、7月23日、唐突な出馬表明があった。

 「北橋市政で停滞する北九州を、ものづくりの街として復活させたい」

 三原朝利(あさと)(36)は北九州市内で開いた記者会見で、こう述べた。朝利は市議会議長の征彦の息子で、衆院議員三原朝彦の甥(おい)にあたる。

 朝彦は北橋支持とされ、「相談したら強く反対される」と相談せずに出馬表明に踏み切った。

 朝利本人は自民党の推薦を希望しているが、メドは立っていない。

 麻生も今のところ支援に難色を示している。麻生にとって三原家は、中選挙区時代の旧福岡2区で長年、議席を争った政敵なのだ。

 今のところ、朝利を支援するのは、勝手連的な一部の自民党の地方議員にとどまる。支持が広がるのか。かぎを握る麻生は、朝利の覚悟を見極めようとしている。

 自民党の支援を得られなければ北橋有利の構図は変わらない。そんな中、朝利は毎日十数カ所の街頭で、通行人にアピールする辻立ちをしている。

 市議団は週明けにも選挙戦への対応を協議するが、折り合いはつきそうにない。相乗り志向に反感を抱く自民党市議は「市長選候補を出し、堂々と政策論争をすべきだと思うが、現実問題として市議団が候補擁立でまとまるのは不可能だ。今のままでは北橋さんには勝てない」と嘆く。(敬称略)

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 鉄の都、大陸との貿易の窓口として、日本の近代化を支えた北九州市。往時は九州一の人口を誇ったが、企業の撤退・縮小に伴う人口減少に歯止めがかからず、斜陽都市と呼ばれるようになった。製造業の街の再興はなるのか。来年2月に任期満了を迎える2期8年の北橋市政を検証する。