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迷走するフリーゲージトレイン 長崎新幹線、地元から「ノー」の声

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迷走するフリーゲージトレイン 長崎新幹線、地元から「ノー」の声

 車輪の幅を変えることで、レール幅が異なる新幹線と在来線区間を直通運転できるフリーゲージトレイン(FGT)構想への逆風が強まっている。国土交通省や車両を開発する「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」は、九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)への導入を目指すが、これまでFGTに賛成していた佐賀県内からさえ「FGTでは時短効果が小さい。フル規格新幹線にしてほしい」との声が上がる。迷走を脱して、FGTが九州を快走する日は来るのか-。(大森貴弘)

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 空気抵抗を減らす流線形のボディーに、鮮やかな赤いライン。試験車両として3代目となるFGTが4月、九州新幹線鹿児島ルートを使って試験走行を始めた。鉄道・運輸機構は、長崎新幹線が開業する平成34年度の実用化を掲げる。

 車両は4両1編成。一部に強化プラスチックを採用することで、これまでの試験車両より1両あたり2トン軽くし、通常の新幹線並みの43トンを実現した。FGT最大の弱点といわれた重量問題を克服した。

 構想によれば博多-新鳥栖と武雄温泉-長崎はフル規格のレールを、その間の新鳥栖-武雄温泉は在来線レールを走る。最高速度は新幹線区間で270キロ、在来線区間で130キロと設定する。

 鉄道・運輸機構の加藤順・新幹線部担当課長は「技術の粋を集めた車両。試験を重ね、実際に長崎新幹線を走る量産車を完成させたい」と語った。FGTにはこれまで380億円の開発費が投じられている。

 だが、FGT実現が目前に迫るに連れて、長崎新幹線沿線の目は冷ややかになっている。

 佐賀県武雄市の官民で作る武雄市新幹線活用プロジェクト(会長、樋渡啓祐・武雄市長)は昨年11月、「九州新幹線西九州ルート整備に関する要望書」を公表し、佐賀県や県選出国会議員、自民党の整備新幹線に関する調査会(町村信孝会長)に提出した。そこには、こう記されている。

 「FGTでは時間短縮効果が薄く、山陽新幹線への直接乗り入れへの課題も懸念される。新幹線のメリットである高速性を最大限発揮するために全線高架フル規格(新幹線)化実現を要望します」

 FGTに「ノー」を突きつけたのは武雄市だけではない。嬉野市や神埼市、鳥栖市などの議会も昨年6~9月、全線フル規格化を求める意見書を相次いで可決した。

 こうした各市の動きに、佐賀県は衝撃を受けた。地元方針の大転換を意味するからだ。

 もともと長崎新幹線構想にあたって、長崎県はフル規格新幹線を、佐賀県は在来線を活用する方式を要望してきた。

 昭和61年、当時の国鉄が長崎新幹線建設に向けた環境影響評価を始めた際、佐賀県東部の旧6町の議会は、相次いで建設反対を決議した。整備したばかりの水田の上に新幹線を通すことへの住民反対を理由に挙げるが、フル規格化による地元の財政負担増や在来線廃止への懸念もあったとみられる。

 フル規格かFGTか。決着を先送りし、長崎新幹線は平成20年4月、武雄温泉-諫早間から着工した。

 その後、24年4月、国土交通省の整備新幹線小委員会が「長崎新幹線は軌間可変電車(FGT)を積極的に活用することが効果的」とする総括を発表し、FGT採用が決まった。

 だが、今になってFGT反対の声が勢いを増す最大の理由は、FGTの“遅さ”だ。現在、博多-長崎間は特急で1時間48分。FGTでは1時間20分で、28分の短縮にしかならない。

 しかもJR西日本が、FGTの山陽新幹線への乗り入れに難色を示す。

 JR西日本は最高速度300キロの新幹線が走る路線に、270キロの列車が入ることで、ダイヤの編成作業が複雑になることを懸念する。このため、鹿児島中央から新大阪まで直通運転する鹿児島ルートとは異なり、長崎新幹線のFGTは、すべて博多止まりとなる可能性がある。

 一方、全線をフル規格で整備すると、博多-長崎間は41分となり、現在より1時間以上の短縮が見込める。さらに長崎県の試算によると、山陽新幹線へ乗り入れることで新大阪-長崎間は3時間5分と、新大阪-鹿児島中央間(3時間半)より短くなる。鹿児島ルート以上に、観光客やビジネス客の誘致が期待できる。

 「時短効果を考えれば、やはりフル規格がよい」。フル規格を目指す佐賀県の一部の自治体と長崎県は、在来線区間の路盤改良工事に着手する前を勝負ととらえる。FGTを前提とした在来線区間工事に着手してしまえば、フル規格化は極めて困難となるからだ。

 武雄市の樋渡市長は「この1年が勝負だ」と職員に言い聞かせ、自ら政府への陳情にかけずり回っている。

 一方、佐賀県の担当者は困惑を隠せない。

 「県内の自治体を説得して何とか今の形にまとめたのに、これ以上かき回さないでほしい。全線フル規格で作るに越したことはないのは分かるが、フル規格になればなったで建設費負担などで異論が噴き出るのは間違いない。新幹線建設自体が足踏みしてしまう可能性だってある」

 日本初のFGTをめぐってさまざまな思惑を抱く自治体。運行主体となるJR九州は表向き沈黙を守っているが、その心中は…。

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【用語解説】フリーゲージトレイン

 新幹線(標準軌)1435ミリと在来線(狭軌)1067ミリの異なる軌間(ゲージ)を直通運転できるよう、車輪の幅を動かせる列車。平成9年に開発が始まり、これまでに3編成の試験車両が製作された。実用化に向けた最終過程となる耐久走行試験を、九州新幹線熊本-新八代で実施している。