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【大人の遠足】静かで素朴な“別天地” つげ義春「貧困旅行記」の宿 千葉・養老渓谷

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【大人の遠足】
静かで素朴な“別天地” つげ義春「貧困旅行記」の宿 千葉・養老渓谷

 「ねじ式」「無能の人」などで知られる異色漫画家・つげ義春氏は、作風と同様にどこか孤独で懐かしく、素朴な旅を好み、旅行記をつづった。人が集まる場所に行かない旅。日常のしがらみからの逃避のようでもある。

 今回たどるのは「新版貧困旅行記」(新潮文庫)にある千葉県の「養老(年金)鉱泉」の旅だ。著書によると、つげ氏は昭和12年生まれ。40年代の旅行記が多い中、ここへは移住先を探すため63年に訪れた。当初は山梨県を考えたが、「歳とったら寒さはこたえるし、耕作も考えると、気候温暖、地味肥沃(ひよく)の千葉県などが実際的かと思い…」と目的地を変更したのだった。

 ある平日、小湊鉄道の養老渓谷駅で降りた。しばらく歩き、養老川沿いの遊歩道へ。木陰が続き、静かだ。人影はほとんどなく、土を踏む自分の足音と、川のせせらぎを聞きながら歩く。時間がゆっくりと流れている。

 数十分後、眼上に橋が現れ、脇につげ氏が宿泊した旅館「川の家」がぽつんとあった。崖のギリギリに建っており、白く、きれいな外観だ。

 つげ氏は当初、養老に味気なさを感じていたが、ここに至ると「静かな谷間を眺めて、ここは思いがけぬ別天地に映った。古ぼけた宿屋も私好みで景色にしっくり溶け込んでいる」と宿泊を決めた。さらに一夜を過ごすと、「地味で年寄り向きで、養老という名がなるほどと思えた」などと述べ、機嫌がすっかり直っている。川の家の功績は大きい。