【想う 8年目の被災地】9月 「届けたい」語りで、写真で - 産経ニュース

【想う 8年目の被災地】9月 「届けたい」語りで、写真で

花が咲いたよ(佐藤美香さん提供)
写真に込められた愛梨ちゃんへの思いを語る佐藤美香さん(右)と珠莉さん。=宮城県石巻市(塔野岡剛撮影)
南浜つなぐ館に展示する前に自宅で撮影した愛梨ちゃんの遺品の上履き。珠莉さんはそのときに初めて目にしたという(佐藤美香さん提供)
いつも一緒に(佐藤美香さん提供)
おねえちゃんへ(佐藤美香さん提供)
一緒に食べよう(佐藤美香さん提供)
 □佐藤美香さん(43)、珠莉さん(11)
 ■「お姉ちゃん、楽しいことたくさんあったよ」
 夫の転勤で静岡県から石巻市に引っ越してきた。長女の愛梨ちゃんは日和幼稚園に入園。運動が好きで背はクラスで2番目に高く、活発な子。3つ違いの妹、珠莉(じゅり)さん(11)は対照的に引っ込み思案な子。
 「姉妹で性格がこんなに違うんだなって。動と静という感じですね」
 母の佐藤美香さんは話す。幼い珠莉さんはお母さんのまねをして、お姉ちゃんを「あいり、あいり」と呼んでいた。
 「お姉ちゃんと『柿の種』を食べてるとき、私はいつもピーナツばかりもらって食べていたな」
 珠莉さんは思い出す。
 平成23年3月11日。愛梨ちゃんはいつも通り、幼稚園に向かった。震災後、火災でこげ、横転した幼稚園バスの中で発見された。友達と抱き合うようにして息絶えていた。6歳だった。
 「この家の屋根がこれで、この電柱がこれ…」
 町歩きの語り部として活動する美香さんはバスの発見現場で、震災前後の写真を交互に見せて、語る。
 あの日、揺れに襲われた後、バスは園児を親元に返そうと園を出発した。
 「なんでバスは出発したのか。幼稚園にいれば無事だったんですよ」
 頭の中を駆けめぐる「なんで」。今も解けない。
 震災当時のまま幼稚園はある。震災による建物の被害はなかった。窓ガラスも1枚も割れていない。閉園した園庭には雑草が茂る。
 「避難する必要もない場所に愛梨はいたんです。大川小学校、七十七銀行女川支店、山元町の自動車学校。数々の津波訴訟がありますが、建物が被災していないのは日和幼稚園だけ。大人の責任で子供の命が奪われることはあってはなりません」
 震災当時、3歳だった珠莉さんは11歳になった。
 「楽しいことがたくさんあった。お姉ちゃんも生きていたら楽しいことがたくさんあったんだろうなと感じます」
 白いデジタルカメラを取り出す。2年ほど前から持ち歩き、撮りためた写真は何千枚にも及ぶ。
 珠莉さんの写真展が8月に開かれた。愛梨ちゃんが生きていたら、14歳。だから14枚の写真が選ばれた。テーマは「届けたい」。
 小さなバスケットに入ったお菓子の写真。愛梨ちゃんの好物を供える。
 「お姉ちゃん、もらうね」
 勉強に疲れると、甘いお菓子でリフレッシュする。
 お花見に行ったときは愛梨ちゃんの分のお弁当と大好きだったイチゴを。人気グループ「EXILE(エグザイル)」のコンサートで東京ドームに行ったときはあいにくの雨。ホテルの窓からの1枚。双眼鏡は「お姉ちゃんも見えるように」と。
 傍らでほほえむ愛梨ちゃんの写真はいつも同じ。
 「一番優しく笑っているから」
 珠莉さんは語る。
 白い花の写真。愛梨ちゃんが亡くなった場所に一輪咲いた花が、今年も咲いた。美香さんが優しくそっと、手で包み込む。
 黒こげの上履き。愛梨ちゃんの遺品だ。今年、震災伝承館「南浜つなぐ館」に寄贈する前日に自宅で撮影した。
 「小さなころは見せないようにしていた」
 美香さんは言う。姉が「助けて、助けて」と声を上げていたときにすぐ側にあったもの。それでも珠莉さんは見たいと言った。
 「お姉ちゃんも他の子も、熱かっただろうな」
 そうつぶやく。
 語りで、写真で。親子は震災と、愛梨ちゃんの生きた証しを伝え続けてきた。
 「愛梨が生きていたらどうだったか、日々考えています。愛梨がいなくなった世界で、私自身の人生も変わりました」
 そして少し言葉に詰まったあと、続けた。
 「被災地が移ろいでいる」
 大阪北部地震、西日本豪雨、台風21号、そして、北海道で震度7を観測した地震…。今年だけでも、多くの災害が被災地を生んだ。
 「被災地という言葉を聞いてどこを連想するかはそれぞれになっています。東日本大震災が過去のものになってきていると感じることもある。7年半という月日、そういうことなのかもしれません」
 でも、という。
 「当事者は決して忘れることはありません。愛梨の命を無駄にしたくないのです。震災の話を知ってもらって災害時に生かしてほしい。届けたいのです」(塔野岡剛)
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 さとう・みか 熊本県出身。語り部のほか、愛梨ちゃんの発見現場で咲いた花を通じて防災を呼びかける「アイリンブループロジェクト」の副代表を務める。
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 さとう・じゅり 小学5年生。プロジェクトの応援隊長として宮城県七ケ浜町で写真展を開催した。