箱根ガラスの森美術館 「~奇跡のガラスを生んだ~華麗なるバロヴィエール一族展」

かながわ美の手帖
「風にそよぐグラス」(1895年、ジュゼッペ・バロヴィエール作、幅17・5×高さ23・6センチ)=箱根ガラスの森美術館蔵

 ■代々受け継ぐ情熱 培われた加工技術

 ベネチアングラス工房の名跡(みょうせき)、バロヴィエール一族の代々の作品を集めた特別企画展「~奇跡のガラスを生んだ~華麗なるバロヴィエール一族展」が箱根ガラスの森美術館で開かれている。収蔵作品に、イタリアなどからの借り入れ作品を加えた約80点を紹介。数百年にわたってガラスの可能性への挑戦を続ける一族の情熱に触れながら、器が作り出す優美な世界を堪能できる。

 ◆性質知り尽くす

 19世紀末、ジュゼッペ・バロヴィエールが制作した「風にそよぐグラス」のシリーズに、多くの来館者が目を奪われている。直径が小玉スイカほどもある大きな半円状のカップが、針金のように細く加工された脚の上に乗っているのだ。脚がコの字型に折り曲げられた作品や、接地面から斜めに伸びた脚がカップを支える作品もある。脚の直径は、一番細いもので約1ミリ。作品保護のため、展示には支柱が施してあるが、支柱を外しても姿勢を保ったまま自立するという。

 驚くのはそれだけではない。これらのグラスは名前の通り、風にそよぐ。傍らのモニターでは、横から風を当てたグラスが、ゆらゆらと左右に大きく振れる様子が映し出されている。

 なぜ脚が折れないのか。同館学芸員の斎藤彩香は「ガラスは細く加工するほど弾力が増す。性質を知り尽くし、自在に操る技術を持つからこそ作ることができた作品だ」と話す。

 1895年に開催された第1回ベネチア・ビエンナーレの関連展覧会に出品されたものだという。一族がそれまで数百年かけて培った技術の粋が集められた作品だ。

 ◆築いた名産の礎

 1千年以上続くといわれるベネチアのガラス工芸の歴史のなかで、バロヴィエール一族は代々、名跡として名をはせてきた。工房の記録は14世紀ごろまでたどることができるという。

 蓄積された技術が大きく開花したのが15世紀。アンジェロ・バロヴィエールが原料の珪砂(けいさ)の純度を高めるなどして、無色透明なガラスの開発に成功したのだ。これによって表現の幅が広がり、人々を魅了するベネチアングラスの礎となった。

 会場では当時の作品「人物行列文壺」や、19世紀に復元された「バロヴィエール・カップ」を展示。いずれもコバルトブルーの器にガラス粉を顔料とする「エナメル絵付け」という技法で描かれており、色鮮やかな絵柄が目を楽しませる。

 16世紀初頭の「レース・グラス蓋付容器」は、ガラスでレース柄を表現するという難度の高い技術が用いられている。技術は「秘法中の秘法」(同館)といい、現代でも制作は非常に難しいとされる。レース柄の白い直線が交わるひし形の中間には、2ミリほどの四角い「気泡」を施すなど、細部まで手が込んでいる。

 デザイン性の進化に努めた20世紀のエルコレ・バロヴィエールの「ア・ステレ(星文)」も美しい。同館学芸員の柳井康弘は「どっしり重く直線的な外観は、それまでのベネチアングラスのイメージと大きく異なる」と解説。ガラス加工への模索がいまも続いていることがうかがえる。

 同館長の岩田正(まさ)崔(たか)は「ガラスに人生の全てをささげている一族。空気や水など、美しいベネチアの風土や環境までも作品に表現しようとしている。高い技術だけでなく、ガラスにかける一族の情熱も感じ取ってほしい」と話している。=敬称略 (外崎晃彦)

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 特別企画展「~奇跡のガラスを生んだ~華麗なるバロヴィエール一族展」は箱根ガラスの森美術館(箱根町仙石原940の48)で11月25日まで。開館は午前10時から午後5時半(入館は午後5時まで)。会期中無休。入館料は一般1500円ほか。問い合わせは同館((電)0460・86・3111)。

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 【用語解説】ベネチアングラス

 イタリア半島付け根の都市・ベネチアで作られる、華麗な色彩とデザインが特徴的なガラス器。13世紀のベネチア共和国時代、ガラス加工技術の国外流出防止を目的に、沖合の離島・ムラーノ島に職人を家族ごと隔離する政策がとられ、以来、島はガラス工芸の拠点として発展した。ベネチアングラスは17世紀以降、実用性よりも装飾性に重点が置かれるようになったとされる。