常識を疑え

もう一筆

 8月初旬の山形豪雨を取材して想起したのは、武田信玄が完成させた「信玄堤」だ。山梨県甲斐市に今も一部が残る信玄堤は、御勅使川と釜無川が合流する地点に天文10(1541)年から18年かけて完成させたものだ。将棋頭という石堤を築き、急流の御勅使川の流れを二分し、その本流を釜無川の赤岩にぶつけて水勢を減殺する自然力を利用した工法だ。釜無川左岸には約1800メートルの堤防も築き、毎年のように大水に見舞われる住民の苦しみは軽減され、後に信玄が「治水の祖」といわれる由縁でもある。

 8月末には、初旬の山形豪雨を思い出させるように大雨が再度、山形を襲った。県北の住民は再度の避難指示で避難所に駆け込んだ。なかでも冠水した戸沢村蔵岡地域の住民は、国土交通省が鳴り物入りで今年1月に開設した角間沢川排水樋管(ポンプ)に期待したが、8月初旬は断続的な停電で稼働せず、8月末は能力を上回る水量で、ともに蔵岡地域は浸水した。

 専門家は指摘する。「最近の異常気象は異常ではなく、異常が日常だと考えた方がよい」と。日頃考える常識が通用しない現在の気象。信玄がどこまで想定して堤を完成させたのかは知る由もないが、想定を超える気象現象について考えなければならない。日常に潜む危険、それに対応できるよう、常識を疑うことが必要だ。(柏崎幸三)